
上映30年後に「発見」されたトリビアとは?
そのトリビアは2018年4月ごろ、日本語圏のあるユーザーがTwitter(現在はXに改名)に投稿したことがきっかけで生まれました。加工前後の2枚の画像とともに、「火垂るの墓のポスターのホタルが全て蛍じゃないという説をいま読んで、画像を解析してみたら本当だった」と投稿していました。
ここで「火垂るの墓のポスター」として投稿された画像は、14歳の清太と4歳の節子の兄妹が夜の草原でホタルのような無数の光の点に囲まれているもの。画像処理でコントラストを上げると2人の背後に米軍の爆撃機「B-29」とみられる巨大な機影が見えています。光の点のうち2人に降り注いでるのは、B-29を投下している焼夷弾(しょういだん)だったようです。
この投稿は「これは知らなかった」「鳥肌が立った」「火が垂れるで火垂るって意味なのか」約10万件の「いいね」を集めました。台湾など海外でも大きな反響があったそうです。
その真相とは?

ただし、このトリビアには裏話があります。まず筆者が調べてみた限り、上映当時の「火垂るの墓のポスター」に、このデザインが使われていた事実は確認できませんでした。ただし、同時上映だった『となりのトトロ』と左右に並べて紹介するB5版のチラシで、SNSで話題になったイラストが使われていました。
筆者が入手したチラシでは、左に『となりのトトロ』、右に『火垂るの墓』のビジュアルを並べ、中央に「忘れ物を、届けにきました。」という糸井重里さんの手がけたキャッチコピーが躍っています。「4月16日(土)より全国東宝系公開!」という文言もあることから、1988年の上映直前に配布されたものと見られます。
実際にこのチラシを見ると、SNSで話題になった「加工前の画像」よりも、はるかにくっきりと「B-29の機影」を見ることができます。
機影は隠されていたわけではなく、B-29から焼夷弾が落とされていることもひと目で分かるようになっていました。

『となりのトトロ』の制作スタッフも不思議がる
スタジオジブリの元スタッフからも、2018年にSNS上での大騒ぎを不思議がる声が出ています。作家の木原浩勝さんは『となりのトトロ』の制作デスクで、『火垂るの墓』の最終段階にも関わっていました。
その木原さんは2018年8月に、Xを上映当時のチラシを添付した上で、「このハッキリと分かるB-29が、なぜ『実は上にB-29が描かれていた!』などと話題になったのだろうか?」と疑問を投げかけていました。
都市伝説の真相は? 後年のポストカードにヒントがあった

スタジオジブリの元スタッフですら戸惑う事態になっていましたが、さらに調べていくと真相らしきものが判明しました。
2018年に「火垂るの墓のポスター」として話題になった画像は、よく見ると「脚本・監督・高畑勲」のクレジットが縦書きになっているなど、上映当時のチラシとは微妙にデザインが違います。
これは上映よりはるか後のポストカードの画像だったようです。2003年に高畑勲さんが日本語版の翻訳・演出を担当したフランスのアニメ映画『キリクと魔女』。その公開記念グッズとして配布された「ジブリの夏 ポストカードセット17枚」のうちの1枚が、ネットで話題になった画像と全く同じ内容でした。
実際にこのポストカードを入手したところ、印刷の関係か「B-29」の機影は暗闇に同化していてはっきり見ることができません。
どうやら印刷が不鮮明だったポストカードの画像が「上映当時のポスター」と勘違いされてSNS上で一人歩きして「30年後の新発見」という都市伝説が生まれたというのが真相だったようです。