
映画『近畿地方のある場所について』が8月8日に公開されました。
ホラー作家の背筋さんによる小説『近畿地方のある場所について』を映像化した作品です。
2023年に、web小説サイト「カクヨム」で原作が公開されると「現実とフィクションの境が曖昧になるような怖さ」が読む人を魅了し、瞬く間に話題を集めました。同年に発行された書籍版は、累計発行部数70万部を突破しています。
本作は「失踪した友人が残した、一見無関係に見える断片的な情報群」を辿っていく中で「近畿地方のある場所」にまつわる恐ろしい事実が次々と白日のもとに晒されていく……というあらすじです。

ホラー小説としても異色な体裁の作品であることから、映画化にあたって原作ファンからは
「原作読んだときからずっと映像で観たかったの!」
「これどうやって映像化するのかすごく興味がある」
「ビビりの私は本なら耐えられましたが映像は我慢できないと思います」
といった反応も相次いでいます。
映画では、俳優の菅野美穂さんと赤楚衛二さんがダブル主演を務めました。オカルトライターの「瀬野千紘」役として本作の映像化に挑んだ菅野美穂さんに、撮影を通じて出会った「恐怖」について話を聞きました。
「もっともっと」と自ら怖さを望んで

――『近畿地方のある場所について』の原作を読んで、どんな感想を抱きましたか?
原作者の背筋さんのスタイルだと思うのですが、ドラマチックに怖くしようとするのではなく、淡々と事実を並べていき、それらが読み進めるうちに繋がっていくような作品ですよね。読んでいる間は、怖いんだけど「もっともっと」と自ら怖さを望んでページを読み進めるような感覚があって、とても新鮮でした。
書籍版では、パソコンとかネット上で見るような横文字のページがそのまま紙に載っている不穏な感じとかも、自分にとって身に覚えのある表現だからこそ怖さを覚えて、すごく印象に残りました。
――出演のオファーを受けた時はどんな気持ちだったのでしょうか。
ホラー作品って若い俳優さんがやることが多いですよね。なので、オファーをいただいた時に「私けっこう歳取ってるけど…」とは思いました(笑)。やっぱりホラーは「丑三つ時(夜中の午前2時ごろ)に撮ってこそ恐怖が増す」と言いますか。夜のロケも多いですし、体力的にも若い方の方がより合ってるんじゃないかなと。
しかし、いただいた脚本を読んでみて、「なるほど」と思いました。 20数年ぶりにホラー作品に参加させていただけて、なかなかない機会でした。

瀬野千紘は「骨付き肉をかじってそう」なイメージ
――菅野さんが演じた「瀬野千紘」役は、視聴者にとっての「恐怖体験のガイド役」的な存在でもあったと思います。演じる上でどんな点を意識されていましたか。
監督の白石晃士さんのお話を伺う中で、監督の頭の中には見てくださるお客さんに恐怖を感じてもらうための伏線や仕掛けなど、作品の出来上がりのイメージがすでにあることがわかりました。
だからこそ、私から自分の考えを提案することがかえってノイズになると思い、できるだけ監督が意図されていることを雑味なく、クリアにそのまま受け取れるように意識しました。

ホラー作品に出てくる女性は「守ってあげたくなるような存在」として描かれることが多いですが、千紘はわりと戦いを挑んでいくような人で、なんか骨付き肉をかじってそうなイメージですね(笑)。そこが新鮮でした。
白石監督が「普段はホラーとバイオレンスを撮ってます」とおっしゃってて、千紘という役は、監督の持つ要素が凝縮して注ぎ込まれた存在なんだな、という感じがして興味深かったです。
千紘はオカルトライターということで、そもそもオカルトに興味があって、けっこう図太い役柄だったので、演じる上では「一般の人よりは怖がりにくいだろう」ということを意識しました。
多分、赤楚さんが怖がってる姿は魅力的だと思うんですけど、私みたいな感じの人が怖がってても、なんかちょっと違うのかなと思って。

――赤楚衛二さん演じる「小沢悠生」との名コンビっぷりも印象的でした。
『近畿地方のある場所について』での、赤楚さんの怯える表情とか、恐れおののく様子は、赤楚さんが演じられてきたこれまでの作品ではあまり拝見できなかった姿で、新鮮に映ると思います。
撮影が進むにつれて「恐怖に歪む美しさ」は赤楚さん担当で、私は「どんと構えてバランスを取る」みたいな、お互いの役割がわかっていった感じでした。

赤楚さんと共演させていただいた作品は今回で2本目になるんですが、赤楚さんはイメージ通りのおだやかな方でした。ずっと途切れ目なくお仕事されててお忙しいでしょうに、疲れとか溜まったストレスとかを現場では全然見せずに、丁寧に誠実に監督の演出に耳を傾けてらっしゃいました。 最近は年下の方に教えていただくことが増えてきたなと思います。
作品に関する取材の中であとから白石監督に伺って「あぁ、そうだったのか」と思ったのですが、私の明るいイメージと、赤楚さんの愛嬌ある愛されキャラの組み合わせが、やはり役どころとしてもポイントだったそうです。

「今のホラーはこういう感じなんだな」と
――菅野さんは過去に『催眠』や『富江』などのホラー作品にも出演されています。今回の『近畿地方のある場所について』と過去の作品とで「変わったな」と感じる点はありましたか?
決定的な違いを感じたのは「(怖さが)今時」というところですかね。なんというか、昔のホラーって、髪が長くて、白い衣装を着て、遠くの方からこっち見つめてるみたいな。 演技としても、ちゃかちゃか動くというよりはなんだろう、「ゆっくり、じっくり、頭を動かさずに動く」みたいなイメージがありますよね。
でも、『近畿地方のある場所について』は、逆に淡々としたドキュメンタリータッチで。「わっ!」って驚くシーンじゃなくても、白石監督の画だと驚いている様子が伝わってきますし、演技のやり方も私の知っているホラーとは違いました。今のホラーはこういう感じなんだな、と。

昔は「幽霊からメールが来る」みたいな怖い話を聞くと、「デジタルの領域に霊が来るわけないじゃん」とか思ってたんですけど、今の若い世代の方には「自分のスマホのカメラロールに幽霊が映ってる」っていうことの方が怖いんですよね。今は「それもわかるな」と思います。
白石監督や原作者の背筋さんといったホラーの作り手は、「見る人の心の中にあるもの」に対してどんなふうに訴えかけたら「受け手の方に刺さる怖さ」になるのかっていうのを考えてらっしゃるのかなと思います。
――菅野さん自身は、ホラー作品はお好きですか?
私は『女優霊』とか『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を最初に観た時に衝撃を受けましたし、かつてホラー作品への出演が続いた時期もありましたし、多分好きな方だと思います。
『近畿地方のある場所について』の出演にあたっても、白石監督の作品や、監督の好きな映画、あとは配信サービスで最近の怖そうな作品などを色々と観てみたのですが、やっぱりホラーは面白いなと。

撮影中に起きた不思議な出来事について
ーーちなみに…菅野さんご自身は幽霊や超常現象などを信じていますか?
私は霊感が全くないのでわからないんですけど、「きっとあるんだろうな」という思いもあります。
白石監督が現場で、「私も見えないので大丈夫です」とおっしゃってました。赤楚さんも「僕も全くないんですよね 」ということで、もう本当に「霊感ゼロ」の主要メンバーで撮影しました(笑)。
――『近畿地方のある場所について』の撮影中に、不思議な事が起きたという話も出ていました。
現場では、(出演者の)男の子が「緑色の人が見える」って言ってたりとか、あとは、心霊スポットのトンネルで撮影をしていた折に、現場でぶら下がってるものがずっと一定のスピードで揺れ動いて止まらないということもありました。白石監督はそれを手でぴたっと止めていました(笑)。
他にも、劇中で動画配信者が撮影した映像が流れるシーンがあるのですが、そのシーンを撮影した次の日に確認したら、データが全部消えてたとか。現場ではカメラテストもしてるし、そんな間違いは起こらないはずなんですけど。だから、映画本編のシーンは再撮影したものだったみたいです。
あとは不思議な出来事というわけではないですが、作中に登場する「ある家」のセットの ”異様さ” がすごかったです。セットなのに、息が苦しくなりそうな気がしたり、においもしないはずなのに、それでも「臭い」と思ってしまうような。もう本当にあれはすごかったですね。

――『近畿地方のある場所について』をこれから観る人に、どんな「恐怖」を感じてもらいたいですか。
この作品にはぞわぞわくるような「身近な怖さ」だけでなく「ファンタジーな怖さ」もあります。
多分10代ぐらいで初めてのホラー映画として観る人なんかには、きっと人生に残る作品なんじゃないかな。 白石監督のお言葉をお借りすると「良質なトラウマ」と「良質なドラマ」を、作中の“呪い”とともに広めていけるといいですね。
酷暑なので、映画館で涼みつつ、肝試し感覚で観ていただけたらなと思います。

【衣装】ジャケット107,800円、パンツ35,200円/ともにINSCRIRE、シャツ53,900円/sebline、シューズ64,900円/PELLICO(すべてAMAN)
問い合わせ先:AMAN(03-6805-0527)、PELLICO(03-6418-5889)
映画『近畿地方のある場所について』
公開:8月8日(金)
出演:菅野美穂、赤楚衛二
監督:白石晃士
脚本:大石哲也 白石晃士
脚本協力:背筋
原作:背筋『近畿地方のある場所について』(KADOKAWA)
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会