
7月24 日にNetflixで、世界的にも人気の高いサンリオのキャラクター「マイメロディ」と「クロミ」が主人公のストップモーションアニメ作品『My Melody & Kuromi』の世界独占配信が始まりました。
配信後にNetflix週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で初登場2位を獲得し、アメリカ、ブラジル、メキシコ、フランス、韓国など59カ国で、シリーズにおけるNetflix週間 TOP10入りを果たすなど、世界的にも大きな注目を集めています。
『My Melody & Kuromi』は、『PUI PUI モルカー』などで知られる見里朝希監督が手がけました。見里監督はXの投稿で本作について「挑戦したかった数々の事を詰め込みました!」として、「ストップモーションの限界」に挑んだと明かしています。
Xでは、実際に作品を観た人からも
💬「めちゃくちゃ映像のクオリティ高くてすごかった マイメロの世界をあそこまで再現できるのすごい」
💬「ストップモーションという枠でぐりぐり動きの制約から解放されたアニメ表現が凄すぎる」
💬「画面に映るキャラ達がそれぞれわちゃわちゃ動いていて、どうやって撮影したのかホント不思議」
💬「メイキング見てもどうやって作られてるのか全然わかんない。すごすぎる」
と、賞賛と驚きの声が多数あがっています。
『My Melody & Kuromi』はいったいどのようにして作られたのでしょうか。BuzzFeed Japanでは、見里監督に制作の舞台裏や作品にかける想いについてインタビューしました。

ここから先は『My Melody & Kuromi』本編の内容に関わる情報が含まれます。
撮影ブースだけでも10倍の広さに
――見里監督が今回『My Melody & Kuromi』に携わった経緯を教えてください。
WIT STUDIOの山田健太プロデューサーの誘いで『My Melody & Kuromi』に携わることになりました。
『PUI PUI モルカー』などを作っていた時は、フリーランスとしてストップモーション作品や、パイロットフィルムなどを手がけていました。元々WIT STUDIOとも一緒に仕事をしていたのですが、今回WIT STUDIOとNetflixの間で、マイメロディとクロミのシリーズを作ることが決まり、その流れで私にお声がけいただきました。
Netflix作品ということで、これまで手がけた作品以上に規模が大きくなるということもあって、今回WIT STUDIOと一緒に「TORUKU(トルク)」というストップモーションのスタジオを立ち上げて『My Melody & Kuromi』を制作しました。
――新しいスタジオでの制作だったのですね。
今回Netflix作品ということで、制作の規模もこれまでと比べてかなり大きくなりました。『PUI PUI モルカー』の時は6畳ひと間くらいのスペースで作っていましたが、『My Melody & Kuromi』では撮影ブースだけでもその10倍くらいの広さでした。制作に携わった人の数も100人を超えています。
WIT STUDIOは普段セルアニメを多く作っているスタジオなので、『My Melody & Kuromi』の製作はWIT STUDIOにとっても、私にとっても、いろいろ初めてのことが多かったですね。
なので、私自身、ただ監督として指示を出すだけではなくて、こだわりたいところに関してはアニメーターやコンポジット(映像の合成)にもちょっと参加させていただいたりなどして、本当に自由度が高かったです。

マイメロディとクロミの「ずきん」に注目
――見里監督はこれまでモルカーをはじめ、オリジナルキャラクターが登場する作品を数多く手掛けてこられました。今回はマイメロディとクロミという、長年親しまれてきたキャラクターが中心の作品ということで、オリジナルキャラクターを使った作品との違いを感じた点はありましたか?
マイメロディとクロミは世界中で愛されているキャラクターで、かつNetflixによる大規模な作品として世界中に向けて発信するということで、作品に携わることをすごく光栄に思ったのと同時に、かなりのプレッシャーも感じていました。
また、ストップモーションで作るということで、とにかく作品の完成度を高め、数多く存在するCG作品の中に埋もれないような出来にしたいなという思いがありました。
オリジナル作品との違いでいうと、「マイメロディとクロミのファンにいかに納得していただくか」を重点的に意識しました。マリーランドの世界観の再現にこだわり、マイメロディやクロミといったメインキャラクターはもちろんのこと、マイメロディのお友だちや、マリーランドの住人といったキャラクターたちも極力再現しています。

――具体的にこだわったポイントについても伺えますでしょうか。
キャラクターの造形に関しまして、マリーランドの住人はほとんどが動物をモチーフにしたキャラクターなので、これまでストップモーション作品を作る際に使用してきた羊毛フェルトという素材とすごく相性が良かったです。
マイメロディとクロミの質感も深くリサーチしまして、中でも二人がつけている「ずきん」の再現にこだわりました。ずきんは羊毛フェルトと素材を変えたいと思ったのですが、とはいえそのまま布を使ってしまうと、コマ撮りで動かす際にいろいろな制約が生じてしまいます。そこで、ずきんはシリコンで作ることにしたのです。
素材はシリコンですが、アップで見るとマイメロディのずきんのテクスチャーがちゃんと布でできてるように見えるように作っています。クロミのずきんはどちらかと言うとつるっとした質感を目指していて、その感じはシリコンでも出しやすかったですね。
ちなみに、クロミのずきんに描かれているドクロは、クロミの表情に合わせてドクロの表情もシンクロするという設定があるのですが、『My Melody & Kuromi』ではそこもしっかり再現しました。

マリーランドの世界観の再現という点では、とにかくサンリオさんらしい「可愛さ」を詰め込みたかったので、制作にあたってはサンリオの月刊機関誌「いちご新聞」やマイメロディの絵本、アートブックといった資料をリサーチしつつ、「手作り感」にこだわりました。木や芝生を布で作ったり、噴水の水をビーズで再現したり、煙をフェルトで表現したり、といった点ですね。

「ストップモーションであることを意識しないでください」と伝えた
――見里監督はXでも「挑戦したいことの数々を詰め込みました」と書かれていましたね。
『My Melody & Kuromi』本編には、「ストップモーションでは実現できないんじゃないか」と思っていたカットがたくさんあります。
ストップモーションは人形の重力だとか関節の動きとか、セルアニメーションやCGアニメーションなどと比べて「表現の制約」が多い技法です。そのため、制作時にストップモーションであることを意識しすぎると、かなり制約された内容になってしまうんじゃないかなという懸念がありました。
まず絵コンテを作る段階で、「ストップモーションであることを意識しないでください」と伝えました。すると、CG作品チックなシーンだったり、派手なアクションシーンが組み込まれていたりとすごく面白そうなものがあがってきました。
そこから、「ではそれを、どうすればストップモーションで実現できるか」という方向で皆さんと話し合い、検証を重ねながら作っていきました。

特に今回革命的だったのが、「ストップモーション専用のカメラ雲台」の開発です。つまみをいじることによってカメラをXYZ軸に動かしたり、回転させたりと自由に調整できる優れものです。『PUI PUI モルカー』を作っていた時は、本とかDVDを重ねてその上にカメラを置いて、間に厚紙を挟んで角度を調整……みたいな形でカメラを調整していたので(笑)。
専用のカメラ雲台の開発によって、カメラワークに対するハードルがものすごく下がり、カーチェイスシーンやアクションシーンなど、カメラが目まぐるしく動くような、ストップモーションとしてはかなり挑戦的なシーンも撮影することができました。
こんな具合で、作るのは難しいと思っていた表現も「意外とやってみたらできるんだな」ということがわかったので、これまでの作品と比べても「ストップモーションの限界」にチャレンジすることができたと言えます。かなり満足しています。

「可愛いの殻からちょっと抜け出してほしい」と言われた
――マイメロディとクロミ、そしてマリーランドの住人たちとの関係性を描く上で意識したことはありますか?
『My Melody & Kuromi』は、脚本をマイメロディの大ファンでもあるという根本宗子さんが手がけたということで、キャラクターのセリフ周りや物語の構成自体は、マイメロディとクロミに関わるこれまでのコンテンツに対するリスペクトを感じられるような素晴らしい内容でした。
私は監督として物語を作っていく上で、「キャラクターの今後の設定が変わりかねないような要素を極力入れない」ように気をつけつつ、マイメロディの優しさとか、クロミの何事にも好奇心を持って挑戦していく心意気など、キャラクターが元々持っている良さを引き出す演出を意識しました。

本作では「優しさとは?」という問いが一つの大きなテーマになっています。キャラクターの内面を描く上で個人的に踏み込めたなと思った点としては、「マイメロディの持つ優しさやポジティブさが時には空回りしたり、気を遣いすぎて逆に誰かを傷つけてしまうこともある」「マイメロディのライバルを自称するクロミの中にも、とても乙女チックな一面がある」といった、キャラクターの深い部分まで描けたことです。
フラットくんやピアノちゃんといった、マイメロディとクロミと比べるとこれまでスポットが当たる機会が少なかったキャラクターたちについても、たとえばフラットくんのどんな時でもマイメロディに尽くす姿とか、ピアノちゃんの妹的な可愛さがありつつもいざという時は頼りになる姿など、キャラクターの新たな一面として描けたのではないかと思います。

――『My Melody & Kuromi』本編には、かなりダークで、毒のある展開もありました。こういった要素を入れることもまた、見里監督にとってはチャレンジだったのでしょうか。
サンリオさんの作品というと、「可愛い」イメージが中心のキャラクターが多いですよね。しかし今回はサンリオさんから「可愛いの殻からちょっと抜け出して、殻を破ってほしい」と言っていただけました。
それなら自分の得意分野ではないかということで、イメージボードやコンセプトアートの中ではあえてキャラクターたちが追い詰められてピンチに陥っているシーンや、仲違いをしている様子など、ダークな要素も含めて提案しました。
ダメ元で提出した部分もあったのですが、それが思っていた以上にサンリオさんから好評でして、かなり自由にやらせていただくことができました。

「LE SSERAFIM」の主題歌で、より完成度が高まった
――『My Melody & Kuromi』の主題歌を人気のガールズグループ「LE SSERAFIM」が担当されていますね。見里監督から見て、主題歌と作品との間にどんな親和性を感じていますか?
今回、長編作品のような規模で、それも世界に通用するような作品を作りたいというという気持ちがあったので、世界的にも人気の「LE SSERAFIM」さんに主題歌をお願いすることができたのは、本当に光栄なことでした。
今回のお話は、マイメロディーとクロミが可愛いキャラクターながら、それぞれ挫折なども味わいつつ、必死に1つの目標を成し遂げようと努力をするというお話でもあります。
主題歌の「Kawaii (Prod. Gen Hoshino)」には、2人が困難を乗り越えて平和を取り戻したという、努力が報われたようなエモさ表現されているなと感じています。
そういう意味でも今回「LE SSERAFIM」さんの主題歌が入ったことによって、より作品の完成度を高めることができたので、本当にありがたかったです。
ストップモーションの魅力は「面倒くささ」にあり
――見里監督はストップモーションのどんな点に魅力を感じているのでしょうか。
ストップモーションの魅力は2つあると思っています。
1つは「手にとって触れることができそうな質感を視聴者にダイレクトに伝えられるところ」ですかね。
ストップモーションは人間の手を使ってキャラクターたちを動かしていくわけなので、「完璧な動き」にすることはできないんですよ。どうしても人間の手が加わったような、何かしらのミスが生じます。
でも、それがまたストップモーションならではの良さなのかなと思っていて。

逆に完璧に近づけようとすると、今度はCG作品と間違えられてしまうかもしれません。「完璧を目指しすぎない方が良い」と思うと気楽になりますし、これがストップモーションの魅力かなと思っております。
もう1つは「本当に面倒くさいこと」です。面倒くさいことは、「大勢の人がやろうとしないこと」でもあるので、あえてストップモーションを選ぶからこそ唯一無二の作品を作ることができるという面があると思います。
もし私が2DやCGのアニメーションとかを作っていたとしたら、周りの作品に埋もれてしまったいたんじゃないかなと個人的に思っていまして。
実際に手で0から作ったキャラクターたちを、1個1個、1コマ1コマ、1秒約24枚分の写真を撮って動かしていくという大変さがあるからこそ、映像を通じて本当に温かみのある感じを伝えられるのではないかと思います。

――見里監督の中での『My Melody & Kuromi』のイチオシのシーンと、作品の見どころを教えてください。
第8話の、マイメロディとクロミがお互いを慰め合いながら、手を組むシーンですね。ここはやっぱり作り手の私自身にも、すごくグスッとするシーンでした。そのシーンでは雨も降っているのですが、マイメロディたちに当たっている雨の雫などもちゃんと手作り感にこだわりました。
また、第11話のクライマックスシーンも、これまでライバル同士だったクロミとフラットくんが手を組んで、1つの目標に立ち向かうという、激熱なシーンです。そこはアクションも、クラマックスにふさわしい表現に仕上がりになっているので、私にとってのイチオシです。

『My Melody & Kuromi』は、マリーランドの住人たちがとにかく可愛らしく動き回る作品になっています。
その中には、ファンの皆さんに喜んでもらえるようなサプライズ要素もあれば、今作のためにサンリオさんにデザインをしていただいた新しいキャラクターも登場します。画面の端の方を見ると、「あのキャラクターが、こんな行動をしている!」という新たな発見があると思います。ストーリーに集中しながら見ていると、見落としてしまうような要素もあると思うので、何度も見ていただけるような作品になると嬉しいです。
マイメロディやクロミの「可愛さ」を最大限に引き出しつつ、演出面ではちょっと過激な演出にも挑戦した作品なので、年齢や性別を問わず、世界中の方々に楽しんでいただきたいですね。

これからも「必ず何か新しい挑戦」を
――最後に、『My Melody & Kuromi』を経て、これからの作品作りの展望などあればぜひ伺いたいです。
今後も作品を作る上では「必ず何かしら新しい挑戦をしたい」と思っています。
本格的なストップモーション作品として、大学生の時に初めて手がけた『私だけを見て』という作品に始まり、その後の『PUIPUIモルカー』など、これまで手がけてきた作品全てにおいて「人生を変える作品を作ってやる」という思いでやってきました。
毎作そんな意気込みで作ってきたからこそ、今の環境を手に入れることができたんだなと実感しています。もちろん、今回の『My Melody & Kuromi』でも限界に挑みました。
これからも作品ごとに新たな挑戦をすることで、私を含むいろんなクリエイターたちの人生に良い影響を与えるようなものを作っていきたいです。

Netflix シリーズ『My Melody & Kuromi』
原作:サンリオ
監督:見里朝希
脚本:根本宗子
主題歌:LE SSERAFIM「Kawaii (Prod. Gen Hoshino)」
制作:TORUKU from WIT STUDIO
配信:Netflix にて世界独占配信中(全12話、約13分/各話)
Netflix 作品ページ:https://www.netflix.com/mymelody&kuromi
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