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「トンチンカンにはなってました! 」二宮和也、ループする“地下通路”での苦労を明かす。映画『8番出口』はこうして作られた
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「トンチンカンにはなってました! 」二宮和也、ループする“地下通路”での苦労を明かす。映画『8番出口』はこうして作られた

大ヒットゲーム『8番出口』が実写映画化。台本作りから本作に関わった主演の二宮和也さんに、撮影秘話やカンヌ映画祭の感想を伺いました。

©️2025 映画「8番出口」製作委員会

累計170万ダウンロード超えを記録した大ヒットしたゲームを実写映画化した『8番出口』(川村元気監督)。

8月29日公開の同作は、第78回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション【ミッドナイト・スクリーニング部門】にも正式招待出品され、“8分間のスタンディングオベーション”という大反響を巻き起こしました。

主演を務めるのは、ゲーム好きとしても知られる二宮和也さん。台本作りから関わったという制作模様や撮影秘話、カンヌ映画祭の感想を伺いました。

台本作りは名前も背景もない男を、1人芝居で演じるための準備

二宮和也さん

ーー『8番出口』は地下鉄が舞台の作品ですが、普段からあのような地下鉄や地下通路を利用されることはありますか?

日頃から公共交通機関で移動していますが、地下鉄は特に舞台を見る時に利用しています。最近では地下鉄と地下通路で直結している劇場が多くあるし、地下鉄だと時間に正確な移動ができる。初めての駅や改修されたばかりの駅では、やはりこの作品のように迷ってしまいますね。

この映画や原作のゲームのように、どこに行っても同じ感覚に陥ったり、異変っぽい出口を見かけたりすることは、現実でもよくあることだと思います。若い頃、地下鉄で1人で現場に向かっていた時にはすごく迷いました。

東京メトロ霞ケ関駅で千代田線から日比谷線に乗り換えるだけでも、「どうなってんだ、これ?」と(笑)。地下鉄の路線も出口もいつの間にか増えていて、「いつの間に作ったの、これ?」と驚くこともありました。

それが日常だと億劫さもありますが、初めてそんな複雑な地下通路に入ったりする時にはワクワク感があります。

子どもの頃に使っていた駅に久しぶりに行って、駅に変化がなければ昔のことも思い出すし、地上に出て街が変わってるとエモくなったりもします。確かに今回の作品に出演してから、さらに地下鉄の見方が増えたかもしれませんね。

二宮和也さん

ーーゲームを原作とする本作ですが、二宮さんは今回は脚本作りの段階から参加していますね。

僕は原作のゲーム自体を知ってはいたので、それをどうやって映像化するのか、すごく興味がありました。僕が演じる「迷う男」は1人の場面がすごく多いから、僕(のスタンス)が成立しないと作品として成立しない。

1人の場面が多い作品では、監督、脚本、役者と、3つの方向性があると、現場で撮影が進みません。

特にこの作品は服装も舞台も変わらず、ループしている。だからこそ、出口が1つになれるように現場以前に整理が必要だと感じ、この役を演じるにあたって、脚本の段階から参加するという手段をとりました。

 

ーー今まで「自分のセリフしか覚えない」と言っていた二宮さんが、企画の段階から関わっているのは珍しいと思いました。初めてでしょうか?

台本からの参加は初めてですね。でも、この作品だからできたことかもしれません。実は台本は1回しか読んでいないんじゃないのかな……。

そもそもセリフは「看板」「ポスター」とか言っているだけなので、台本を読んでいるうちに入らない。セリフは記号というか、現場で見えているものを言っているだけ(笑)。

だから、カメラと照明と録音と役者で揉んで、演じたものを監督に提出してみる、というのが現場のベースでした。台本を無視したチャレンジも監督は最初の観客として楽しんでくれました。自由度の高い現場でしたね。

二宮和也さん

ーー二宮さんが演じられた「迷う男」は名前もなく、そのバックグラウンドもわずかしか明らかにされていません。そうした役をどんなアプローチで演じられたのでしょうか。

僕が演じる「迷う男」だけではなく、作品中に登場する「歩く男」にも「少年」にも「ある女」にも名前はありません。もちろん「迷う男」が物語の主軸ではありますが、僕は「主役がいない作品」と捉えました。

4人のキャラクターはピラミッド型ではなく、比重に順列なく並列であり、組み合わせ次第で異なる展開を物語に生み出す存在。

キャラクターの心情や感情はあんまり関係はなく、物語の展開を追っていくと、自ずとそのキャラクターの内情が浮き彫りになる。だから、撮影中は一人ひとりのキャラクターを深掘りしなくても、回収できるポイントを探していました。

 

ーー全く同じ風景をループする作品にもかかわらず、ストーリーの順番通りではなく撮影していたということですが、演じていてトンチンカンになりませんでしたか?

トンチンカンにはなってました! それに加えて、恐ろしいほどのリテイクだったので、もうわけがわからなくなっていました(笑)。

中盤あたりからは、これがリテイクなのか、初めての撮影なのか、みんなでもう右往左往しましたね。

特に物語の前半部は、出てくるのが俺1人なので、みんな分からなくて。だから小松菜奈さんや(浅沼)成が出てくると、みんな嬉しい(笑)。

いいスパイスにはなってましたね。でも混乱しながらも、意外とみんなが考えていたことは混乱せずに映像化できたように思います。

河内大和の歩く姿は「ゲームのまま」とスタッフも絶賛

河内大和さん

ーーキャラクターの中では「歩く男」に大きなインパクトがありました。この役を演じた河内大和(こうち・やまと)さんについてお聞かせください。

河内さんとはドラマ(2023年にTBS系列で放送された『VIVANT』)で共演したこともあり、割と話す間柄なんですが……河内さんは大変そうでした(笑)。

河内さんは撮影初日に「ごめん、舞台で足を痛めたんだ」と言い出しました。あの通路を僕が歩き始めて3歩目で河内さんが歩き出して、映画の流れで適切なポイントですれ違うことになる計算だったのですが、タイミングが全然合わなくて(笑)。

「足が痛いから間に合わない」「間に合わせて」といったやりとりをしながら、その練習を2人でずっとやっていました。

二宮和也さん

実は撮影に入る前の練習では、河内さんの歩くフォルムが、スタッフの歓声が上がるぐらい再現度が高かった。そこで、みんなが褒めていたことで、調子に乗っちゃったのかな(笑)。現場ではテーピングを巻いたりして、すごく頑張っていました。

河内さんは異変があるとモーションが変わるのですが、基本的には僕とずっとすれ違って歩くだけ。後の展開で解消されるとしても、芝居としてはとても難しい。「ああしたい」「こうしたい」というのを削ぎ落として演じていたのではないかと思います。

現場では基本的に話し相手がお互いしかいないので、よく話し合っていました。河内さんは自分の出番がない日も現場に来て、「少年」役の成(なる)と遊んでくれたり、役者以上の働きをしてくれていましたね(笑)。現場も本当に助かったと思います。

浅沼成さん

ーー「少年」を演じた浅沼成(あさぬま・なる)さんは現場ではいかがでしたか?

監督には「芝居っ気のない子を選んだから、よろしくね」と言われていました。だから、芝居の指導をするというよりも、その子の気質に合った環境を整えることが重要だ、と共有することもなく、僕もスタッフも考えていました。

成はやる気になったらやるし、やらない時はやらないタイプ。だから、どちらかというと「素材を撮る」と捉えていました。芝居とは、相手がいてやりとりがあって、感情が生まれるもの。そういうロジックもありますが、それを強要した時点で作用しなくなってしまう。

だから、成のやる気に任せていましたし、彼にあまり味付けしないようにみんなで気を配りました。それをみんなが話し合わずとも理解していたのは、現場としてはいい空気感だったと思いますね。

小松菜奈さん

ーー共演した小松菜奈(こまつ・なな)さんの印象について教えてください。

小松さんは久しぶりのお芝居ですごく緊張されていたそうです。出番ではない時に現場を見にきたり、監督と話し合って芝居を作っていたみたいでした。僕はそんなに緊張しているとは思っていませんでした。

だからそうとは知らず、台本と異なる展開をいろいろとお願いしてしまいました。どうしても欲しい流れは、僕からリクエストしました。小松さんは「わかりました」と演じてくれたので、本当に僕自身が小松さんが緊張してるところをお見受けすることはなくて。後から監督に聞いて「え、そうだったの」と驚きました。

カンヌの街ゆく人や記者から感じた映画への深い敬愛

カンヌ映画祭での模様

ーーカンヌ国際映画祭での取材について「興味深い質問ばかり、、、ふむふむと思う事が多かったなあ」とご自身のXにポストされていましたが、どのような質問が印象に残っていますか?

監督が同席してたというのが大きい理由だとは思うのですが、自分と作品との関わりについてよりも「物語がない原作をどう物語化したのか」など、この作品全体に関する質問が多いことが非常に新鮮でした。監督が最も驚いていたのは、「主観から客観に切り替えるタイミングがなぜあそこだったのか」という質問でしたね。

また、記者の方々のカンヌ国際映画祭に関する知識の深さにも驚かされました。例えば、「カンヌに呼ばれた時は焦ったんじゃないですか?」と言われました。「もともと出品を狙っていたのなら、もっと早くから編集していたはず。年明けくらいから編集を始めていませんか?」と言われて、「そんなこともわかるんだな」とびっくりしました。

二宮和也さん

ーー上映会をはじめ、カンヌ国際映画祭に参加した感想も伺えますか。

どうしても映画は「直せるところがあるか」という目線で見てしまったんですが、それでも見る人の感情を揺り動かす場面では感情が動く作品に仕上がっていると感じました。異国の地で自分たちが関わる作品が一定の評価を得たということも嬉しかったんですが、改めて映画自体の本質に感動しましたね。

また、Xにも書きましたが、カンヌでは街中で出会った人々に「『浅田家!』を見ました」とか「パリまで見に行きました」とか声をかけられました。そうした出会いで日本の作品が世界で動いていると実感しました。

そして、ドレスコードを守って華やかに装い、男性も女性も気分を盛り上げて映画を見に行くという一連の流れには、映画への深い敬愛を感じました。僕はあまりそういう映画祭に行ったことがなかったせいもあるかと思いますが、非常に新鮮でした。そういう経験をさせてもらったことも嬉しかったですね。

映画『8番出口

二宮和也さん