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【連載30回記念】市川沙央さん凱旋! 芥川賞後の長すぎた2年。「自費出版するしかないと思い詰めたことも」 小説家になりたい人が、なった人に〈その後〉を聞いてみた。#30 市川沙央さん(写真提供:文藝春秋) 物語の出来でいえばライトノベル>芥川賞 初代・小説家になった人、市川沙央。この人なくしては連載が30回を迎えることはなかっただろう。筋疾患先天性ミオパチーを患い、書くほかなかった市川さんが小説家になるまでを真摯に語った第1回は、瞬く間に100万PVを超え、「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」を人気連載へと押し上げた。 「私の方こそ、この連載がなかったら現在の市川沙央はなかったと言って過言ではありません。私たち、ここまで心は一緒に走ってきましたよね! 第1回のサムネイルを見るたび『シャツドレスのボタン、上まで留めすぎ』と思うのですが(笑)」 (今回の取材も前回同様、あらかじめメ
©とあるアラ子/講談社 「ブス」と言われ、学生時代にいじめられていた知子。大人になった彼女は、自分をいじめていた“美人”の同級生・梨花が美容家として成功していることを知り、怒りに震える。知子は、梨花への復讐を決意する――! それぞれの理由で「見た目」に振り回されてきた知子と梨花は、美醜の問題をどう受け止めるようになっていくのか。反ルッキズム×シスターフッドの物語。 誰もが当事者でありえる問題 ――『ブスなんて言わないで』完結おめでとうございます。描き終わってみて、今どんな感覚ですか? ルッキズムは、私にとっては描きやすい題材でした。美醜の問題を一度も考えたことがない人は少ないし、誰もが当事者でありえるからこそ、興味を持って読んでもらえる。色んなキャラクターが現れては悩みを吐露するという物語のフレームができてからはアイデアがどんどん湧いて、「最終回です」と言ったら、読者の方から「まだまだ描け
10月13日の時点で興行収入160億円を突破! 映画「国宝」が実写邦画の歴代興行収入で一二を争う快進撃を続けている。任侠の家に生まれた喜久雄は15歳のとき歌舞伎俳優・花井半二郎に引き取られ、実の息子である俊介と兄弟のように育てられた。血筋が極めて重視される歌舞伎界で、持って生まれた天賦の才だけでどこまで戦えるのか。「才能VS血筋」が大きなテーマとなっている。 この対比そのものは決して目新しいものではない。実に半世紀前の1975年(76年1号)から「花とゆめ」(白泉社)で不定期連載されている未完の大作、『ガラスの仮面』(美内すずえ)を思い出した人も多いのではないだろうか。 父はなく、母は町中華の住み込み店員をしている北島マヤ。一見平凡で取り柄のない少女だが、彼女は天性の演技の才を持っていた。一方、生涯のライバルとなる姫川亜弓は、映画監督と人気女優を両親に持ち、5歳から子役として活躍していた芸
清水真砂子(しみず・まさこ) 翻訳家、児童文学研究者。青山学院女子短期大学名誉教授。「ゲド戦記」シリーズ、マーガレット・マーヒー『めざめれば魔女』、『トーク・トーク――カニグズバーグ講演集』(以上、岩波書店)など訳書多数。著書に『大人になるっておもしろい?』(岩波ジュニア新書)、『子どもの本のもつ力――世界と出会える60冊』(大月書店)など多数。 光と闇を一つの全きものにしていく物語 ――「ゲド戦記」は、アースシーと呼ばれる架空の多島海(アーキペラゴ)世界を舞台とするファンタジー。大魔法使いゲド(通名ハイタカ)の、若き日の物語として第1巻『影との戦い』ははじまります。冒頭、「ことばは沈黙に/光は闇に/生は死の中にあるものなれ/飛翔せるタカの/虚空にこそ輝ける如くに――」という架空の古い物語詩の一節から、本編へ入っていきます。凛とした訳文に魅了された読者も多かったのではないでしょうか。 それ
記事:白揚社 『情報セキュリティの敗北史――脆弱性はどこから来たのか』(アンドリュー・スチュワート著、小林啓倫訳、白揚社) 書籍情報はこちら アサヒGHDを襲ったランサムウェア攻撃とは? 2025年9月、大手飲料・食品企業であるアサヒグループホールディングス(アサヒGHD)が、ランサムウェアによる大規模なサイバー攻撃の標的となった。ランサムウェアとは、いわゆるマルウェア(コンピューターウイルス)の一種で、感染した端末を使用不可能な状態にしてしまうというもの。それを解除してほしければ身代金(ランサム)を払え、と攻撃者が脅迫してくることからこの名前がついた。 アサヒGHDの場合、Qilin(キリン)というハッカー集団が放ったランサムウェアによって大規模なシステム障害が発生し、国内全拠点の生産・出荷の即時停止という深刻な事態を引き起こした。この記事を執筆している時点でも影響は残っており、アサヒG
竹中優子さん=撮影・武藤奈緒美 第56回新潮新人賞 受賞作『ダンス』 今日こそ3人まとめて往復ビンタしてやろうと堅く心に決めて会社に行った――。同僚3名の欠勤が続き、その分仕事が増えた「私」は怒りを募らせていた。ある日、3人のうちの一人である下村さんから、彼らの三角関係を知らされる。会社を休んで婚活パーティに行ったり、元カレとその新しい彼女が暮らすアパートを見張ったり、潔いのか未練たらしいのかわからない下村さんのダンスから、なぜか私は目が離せない。 綿矢・金原ショックで就職に逃げる 2016年に角川短歌賞、22年に第1歌集『輪をつくる』で現代短歌新人賞。同年、現代詩手帖賞、第1詩集『冬が終わるとき』で中原中也賞最終候補。そして2024年、『ダンス』で新潮新人賞を受賞し、同作が芥川賞候補に――。 あまりにも華麗な受賞歴に、この連載に出てもらうべきか迷った。天才の話は凡人の参考にならない。とこ
能登半島地震で被災した土蔵から運び出された古文書。「文化財レスキュー」が歴史を今につなぐ=2024年3月、石川県能登町 「現在を知るためには歴史を学ぶ必要がある」とはしばしば耳にするせりふである。しかし、過去の出来事と、私たちが生きている現在とはどのようにつながっているのだろうか。 そもそも、私たちは過去のことを、ある程度理解できてしまう。それはなぜなのだろう。戦後の日本中世史研究を長くリードした佐藤進一の『新版 古文書学入門』(法政大学出版局・3630円)は、その問いに答える手がかりを与えてくれる。「古文書」という言葉はさまざまな意味で使われるが、ここでの「古文書」は、日本史の専門家が使う狭い意味での「古文書」を指しており、佐藤によれば、ある人物あるいは組織から別の人物や組織へ、「意思表示」をしている文献のことである。たとえば、「命令書」とか、「請願書」といった書類は、それぞれ「命令」や
「現代史の起点」 [著]塩川伸明 歴史学では今、現代史と近世史が熱い。前者ではロシア・ウクライナ戦争やガザ問題を契機に再点検が始まっている。後者ではこの10年来、帝国や主権国家の捉え直しがテーマだ。本書はソ連解体の検証から現代史の起点を再考する意欲作。それゆえの波及効果だろうか。関係なさそうな近世史にまで架橋するような威力をもつから驚きだ。 ソ連解体過程の叙述は実に明晰(めいせき)。巷(ちまた)の思い込みに近い俗説――「改革は体制崩壊に行き着く」「旧体制の矛盾から崩壊」――に疑念を呈し、歴史がそのように単純なものでないことを、経済・政治・民族問題・国際関係の膨大な史料から語る。 特に1990年ごろから91年の8月クーデタ直前までの時期に、ソ連を構成する15の共和国別に質の異なる政権が成立し、ソ連の再建が頓挫(とんざ)していく過程の叙述は圧巻。大別すれば、ソ連邦構成共和国はのちの独立主権国家
『「イスラエル人」の世界観』 [著]大治朋子/「アメリカの中東戦略とはなにか」 [著]溝渕正季 イスラエルによるガザ攻撃開始から二年、悲惨な現状は今も続いている。死者数ばかりが増える毎日に、誰しも抱く疑問はこうだろう。なぜイスラエルは、ここまでパレスチナを敵視するのか。なぜ米国はいつも、イスラエルの暴力を擁護・支援するのか。 ガザの子どもたちの遺体が保冷箱に詰められる同じ地で、ユダヤ人がアイスクリームを楽しむ。その光景を『「イスラエル人」の世界観』で大治朋子は「彼らはなぜ『平気』なのか、なぜ正気でいられるのか」と問う。それが本書の出発点にある。ホロコーストの被害者だからこそ強くならねばと決意し、「被害者意識の牢獄」から抜けられない。ホロコーストの被害は絶対で、いかなる虐殺もその比ではないと、自身の被害体験を特別視する。 そのイスラエルをなぜ米国が支持するのか。米とイスラエルの「特別な関係」
水野太貴さん=篠塚ようこ撮影 水野太貴(みずの・だいき) 1995年生まれ。愛知県出身。名古屋大学文学部卒。専攻は言語学。出版社で編集者として勤務するかたわら、2021年からYouTube、ポッドキャストチャンネル「ゆる言語学ラジオ」で話し手を務める。同チャンネルのYouTube登録者数は38万人超。著書に『復刻版 言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』(バリューブックス・パブリッシング)、『きょう、ゴリラをうえたよ 愉快で深いこどものいいまちがい集』(KADOKAWA)がある。 予約受付でサーバーダウン 「ゆる言語学ラジオ」で、「会話の0.2秒を言語学する」の予約開始を告知したのは7月8日のこと。オンライン書店「バリューブックス」で予約特典付きの3500冊を用意したが、約6時間で完売し、アクセス過多でサーバーも落ちてしまった。急遽5000冊を追加したが、こちらも同
「極右インターナショナリズムの時代」 [著]佐原徹哉 歴史解釈ほど移ろいやすいものはない。1989年の東欧革命は当初、単に民主化または体制転換と形容された。だが、この10年の間に、新自由主義革命と再定義されるようになった。社会主義国家が資本主義世界発の新自由主義に呑(の)み込まれていく過程とみるのだ。欧州連合(EU)を新自由主義帝国とみる識者もいる。まさに東欧は新自由主義の浸透度を測るリトマス紙のような存在。東欧に典型的に表れるように、新自由主義の浸透が極右を生み、しかも極右をグローバルに跋扈(ばっこ)させたと主張するのが本書だ。 バルカン半島を軸に、世界的な右傾化のメカニズムを徐々に解きほぐす。問いは明快だ。西欧の極右に現れるカウンター・ジハード主義はなぜアルカイダや「イスラム国」(IS)ではなく、一般のムスリムや移民・難民に好意的なキリスト教徒を憎むのか。なぜ東欧のセルビア民族主義を称
渋谷陽一が亡くなった。これを機に彼が音楽評論家として鮮烈な活躍をした当時の記憶を通して「ロック批評の現在地」を考えてみたい。 渋谷陽一最大の功績は、ロック評論がまだ、遠い国の音楽の情報をいち早く知らせる「情報業」だった中、「ロックそのものではなく、ロックに触発された自分を語る」という手法の確立にあった。 レッド・ツェッペリンの名盤「プレゼンス」(1976年)のライナーノーツに「全く申し分ないツェッペリンの巨大な音を前に、僕はひたすら自分が開かれていくのを感じる」と書ききっている。明らかに主題はツェッペリンではなく渋谷陽一本人なのだ。 また、マニア志向にならず、自ら書いた文章、自ら創刊した雑誌「ロッキング・オン」を、読者に確実に「開く」技術と情熱に長じていた。 創刊メンバーでもある橘川幸夫の『ロッキング・オンの時代』(晶文社・1760円)には、とにかく1冊でも多く売ってやるという、編集長・渋
民俗学生かしスケールの大きい恐怖 雑誌の記事やネットの投稿など、実際にありそうな文章を組み合わせることで、高いリアリティを演出するモキュメンタリーホラー。近年ではその手法が一般化し、「モキュメンタリーを使って何を表現するのか」が問われるようになってきた。 たとえば結末で明かされる真相の意外性で驚かせてくれるのが、斉砂波人『堕ちた儀式の記録』(KADOKAWA)である。大学で民俗学を研究している「僕」は、「ノミコ数珠回し」という珍しい儀式を現地調査するため、東北地方の山村に向かった。ノミコ数珠回しは輪になった村人たちが、長い数珠をじゃらじゃらと回す伝統的な儀式で、天の龍神に捧げられるものだという。 その調査と並行して、空から石や魚などが降ってくる「ファフロツキーズ」と呼ばれる超常現象、旧約聖書に記されたマナと呼ばれる食べ物、雨を降らせる龍の伝説などに関する解説パートがいくつも挿入される。これ
「日本 老いと成熟の平和」 [著]トム・フォン・リ 周辺諸国の軍事的な台頭に対抗するために、日本が戦後の非軍事主義的なスタンスを捨てて、保守派が言うところの「普通の国」になるのではないかとの懸念がある。だが、米国の大学で教鞭(きょうべん)を執(と)る本書の著者は、そうはならないだろうと明言する。大きな理由として挙げるのが、日本が直面する少子高齢化という人口動態上の制約である。国防は、予備的な人員を多く必要とする労働集約的な「産業」だ。自衛隊の採用もままならなくなっているのに軍拡などできるわけがないというのだ。実際に、最近も自衛隊の観閲式が人手不足を理由に今後は行われなくなるとの報道があった。 本書で紹介される防衛省幹部の言葉が、深刻な状況を端的に示している。自衛隊は(従来の規模を維持するには)毎年一万人の高卒人材を入隊させる必要があるが、年間の出生児数が百万人を切っている現状では、高校卒業
核不拡散体制と主権不平等: 核兵器独占はいかに正当化されてきたか 著者:濱村 仁 出版社:東京大学出版会 ジャンル:社会・政治 「核不拡散体制と主権不平等」 [著]濱村仁 核問題が国際的な話題に上がるたび、いつも居心地が悪い。研究対象の中東諸国が、違法な核開発を試みる極悪非道の国としてばかり注目されるからだ。今年6月、イスラエルと米国がイランの核施設を攻撃した際も、中東地域研究者としてはつい、核不拡散条約に参加しないまま90発もの核弾頭を保有しているのはイスラエルなのにとか、多国間核合意から一方的に脱退したのは米国でイランではないのにとか、大量破壊兵器保有を理由に軍事攻撃しながら結局発見できなかったイラクでの失敗を米国は忘れたのかとか、文句を言いたくなる。核管理を巡る国際体制は、あまりに不公平じゃないか、と。 その不満に答えてくれそうなタイトルの本書は、まさに国際社会の「核保有をめぐる主権
群像新人文学賞・綾木朱美さん 校閲のスキルアップのために書いた小説で受賞「賞をとってはじめて、小説家でありたいと思った」 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#27 綾木朱美さん=撮影・武藤奈緒美 第68回群像新人文学賞 受賞作『アザミ』 新聞の校閲を仕事とするアザミは、出勤するとまずニュースサイトのコメントランキングをチェックする。ランキングにあった〈ミカエル楓 初のソロアルバム〉の記事を読んでいたところ、同僚からファンになるなと忠告され、興味をもつ。ミカエル楓は女性問題を起こしてK-POPアイドルグループから脱退し、日本で心機一転を計ろうとしているらしい。大荒れするコメント欄にのめり込むアザミは、やがてミカエル楓に対し、完璧な憎悪を備えるようになる――。 中学受験に対する鬱屈をフィクションに はじめて応募した小説『アザミ』で群像新人文学賞を受賞した綾木さん。長く「公募勢」を
記事:筑摩書房 書籍情報はこちら ケアの鑑別診断 ——刊行までの経緯を聞かせていただけますか。 松本さんの単行本デビュー作は『人はみな妄想する──ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(青土社、2015年)です。 これは、精神病か神経症かを判断する「鑑別診断」を軸にしてラカンを論じるものでした。精神病と神経症では治療法がまったく異なるので、このふたつをどう見分ける(鑑別する)かが、とても大事だったといいます。 あの本で「おお、あのむずかしいラカンがわかる!」と思ったひとは少なくないと思います。ぼくも当時その例に漏れず、わかった気になった人間のひとりで、松本さんには何か書いていただきたいと思っていました。 こじつけめいた言い方になりますが、『斜め論』はケアの「鑑別診断」をしている本だとも言えます。病気のタイプを見極める(鑑別する)ように、「このケアは望ましい支援になっているか? 抑圧になっていな
記事:じんぶん堂企画室 自宅内にある書庫で本のページをめくる。書庫以外にも至る所に書棚がある=篠田英美撮影 書籍情報はこちら ――2年半にわたって続いてきた連載ですが、今回で一区切りです。現在取り組まれていることや連載の感想もお聞きしたいのですが、まずは、現段階での理論的な最新著作である2022年の『力と交換様式』について。刊行時にお話し頂いたので(『力と交換様式』インタビュー)、今回はさわりだけ。 《柄谷さんは、人間の歴史の中で起きてきた社会の構造的な変化を“交換”という観点から見直し、従来の“生産様式”にかわるものとして “交換様式”という考え方をまとめあげた(「生産様式論」については第28回を参照)。柄谷さんの分類では、交換には四つの様式、A=贈与と返礼の互酬、B=支配と保護による略取と再分配、C=貨幣と商品による商品交換、そのいずれとも違う自由と平等を担保したDがあるという。ABC
記事:白揚社 『ストイシズム:何事にも動じない「無敵の心」のつくり方』 書籍情報はこちら SNSが怒りを増幅し、ニュースが不安を点滴する21世紀――私たちは、外部から揺さぶられないための何かを探している。その候補として古代から召喚されたのがストア派の哲学だ。 かつてヘーゲルに「歴史を停滞させる抽象的自由」と酷評されたこの学派は、1981年、フランスの哲学史家ピエール・アドが『古代哲学とは何か』で注目し、〈哲学はスピリチュアル・エクササイズ(魂の筋トレ)である〉と、ストア派のその実践性を高く評価したことで息を吹き返す。続く81年から82年にかけて、ミシェル・フーコーはコレージュ・ド・フランス講義で〈自己への配慮(主体を形づくる実践)〉を展開する中でストア派を取り上げた。この講義は1984年に『性の歴史III――自己への配慮』として結実する。 ストア派再評価の伏流は、このように何年も前から静か
記事:平凡社 台湾の夜市の風景。一見「台湾らしい」景色のように見えるが、「台湾らしさ」とはこの写真だけでは表せない複雑さを持っている。(写真はすべて著者撮影) 書籍情報はこちら 平凡社新書『日本人のための台湾学入門』(康凱爾著) 「台湾らしさ」って、なんだろう? みなさんは、台湾と聞いてどのようなイメージを持つでしょうか。鼎泰豐の小籠包、夜市の大きなチキンカツ、あるいは最近は日本にも台湾風の朝食店ができていますから、それを思い浮かべる方もいるかもしれません。 私は台湾に住んで14年になります。私の妻は台湾人で、二人の娘がいます。かつてはこちらの企業で台湾人と一緒に働いていました。そして現在は台湾研究をしていますから、外国人としてはそれなりに台湾に向き合ってきたと言ってよいと思います。 しかしそれでも、台湾をよく知らない人々に台湾はどういう場所かと問われると、いつもうまく答えることができませ
スコットランドと〈開かれた〉ナショナリズム:分離独立・福祉・移民 著者:髙橋 誠 出版社:慶應義塾大学出版会 ジャンル:社会・政治 「スコットランドと〈開かれた〉ナショナリズム」 [著]髙橋誠 1970年代半ば、同級生の女子たちはスコットランド出身のポップグループ、ベイ・シティ・ローラーズに夢中だった。トレードマークのタータンチェックをあしらったグッズが教室にあふれた。 2014年、再び〝タータンチェックの熱狂〟をニュースで目にすることになる。今度は本家本元、スコットランドの出来事だ。英国からの独立を問う住民投票が行われた。独立賛成派はタータンチェックのマフラーを掲げながら独立を訴えていた(結局、独立反対派が勝利した)。 私はその頃、沖縄で米軍基地問題を取材していた。スコットランド独立運動は、自己決定権を奪われた沖縄の姿と重なった。独立を目指す背景には沖縄同様、イングランドから受けてきた差
藤原新也さん(左)と武田砂鉄さん=種子貴之撮影 群れないとアンテナが磨かれる 武田: 10年前になりますが、『紋切型社会』をBunkamuraドゥマゴ文学賞に選んでいただきました。その贈呈式後の二次会に藤原さんがいらっしゃったときに、「ここにはエライ人がいないのがいい」と言ってくれたのが印象的で、今でも覚えています。藤原さんの活動を考えたとき、「群れない」を徹底されてきたと感じています。SNSをはじめとした現代の承認欲求のように、自分の周囲・背景にどれだけの人がいるかを示すことで自分の力を証明する行動様式の対極です。 藤原:ひとり旅が長かったから自ずと群れないと言う行動様式が身についたのだと思います。それにひとりでいるとものがよく見えるし、感性やアンテナが磨かれる。気づきの世界が写真の仕事ですが助手がいたりすると感性が鈍ってしまうんですね。そう意味でも僕の仕事自体が「個」で成り立っていると
図書館予算の削減に反対するイベント インタビューを音声でも! 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」でも、篠原さんとCOOKIEHEADさんのトークをお聴きいただけます。以下の記事は、音声を要約・編集したものです。 「公共の」みんなのための図書館であること ――NYの市民にとって、図書館はどういう場所なのでしょうか。 一般的に公共図書館(パブリックライブラリー)と呼ばれています。その公共(パブリック)というのは、大きくは予算の多くが地方自治体を中心とした公共の形で出ているという意味があります。でもそれだけではなく、みんなのための場所であるということに非常に重きを置いているんです。 図書館の屋上でヨガクラス=Gregg Richards氏提供 もちろん基本となるのは、本、CD、DVD、Blu-rayなどの資料の貸し出しですが、それだけではなく、住民の生活に必要なものや人
インタビューを音声でも! 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」でも、篠原さんとCOOKIEHEADさんのトークをお聴きいただけます。以下の記事は、音声を要約・編集したものです。 NYの個性的な独立系書店 ■ Yu & Me books Yu & Me booksの外観 ――おすすめの独立系書店を教えてください。 まず、マンハッタンのチャイナタウンに位置していて、アジア系アメリカ人の女性が経営する「Yu & Me books」というお店です。アメリカ国内のアジアにルーツを持つ著者や、アジアの著者から発信される声に特化しています。 ――「Yu & Me books」は日本文学や韓国文学も多いですね。特にコロナ禍の第一次トランプ政権の頃、アジアンヘイトが広がった中では、重要な拠点になったのではないかと思います。残念ながら火事があって一時閉店していましたが、クラウドファンディ
記事:明石書店 『東南アジアのリバース・ジェンダー・ギャップ』(鴨川明子・ 服部美奈 編著、明石書店) 書籍情報はこちら 進む、広がる、女性の高学歴化――その光と影 「世界の多くの国々で男性よりも女性の方が高学歴化している」と聞いて、驚かれる方も多いのではないでしょうか。統計を見ても、大学をはじめとする高等教育段階において、男性よりも女性の数が上回る「リバース・ジェンダー・ギャップ(Reverse Gender Gap: RGG)」現象が進んでいます。 本書はこの新しい現象に着目し、執筆者の多くが長年フィールドとしてきた東南アジア5か国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、カンボジア)を主たる対象とする国際比較研究にチャレンジしています。 特に、本書では、長年東南アジアのフィールドで自然と身についてきた「肌感覚」を大切にしながら、「女性の高学歴化」という切り口だけではなく、これまで
第68回群像新人文学賞 受賞作『鳥の夢の場合』 「おれ、死んでもうた。やから殺してくれへん?」。シェアハウスの同居人・蓮見から頼まれた初瀬はその日から55日、仕事に行ったり、文鳥を部屋の中に放したり、友だちから海外土産の葉巻をもらったり、美容院をキャンセルしていない自分を想像したり、日常生活を送りながら、蓮見の依頼について考えた。 この連載では「小説家になった人」に受賞作にまつわる資料やプロットノート、息抜きやおまもりなどを持ってきてもらう。駒田隼也さんがリュックから取り出したのは紙風船だった。 こ、これは実存とか虚無とか何か哲学的なことを表しているんだろうか……? と身構えたのは、駒田さんの受賞作「鳥の夢の場合」が、もう死んでいる人から殺してくれと頼まれるという不思議な話だったからだ。 けれど駒田さんはこう言った。 「室伏広治さんが提唱しているトレーニングに使うんです」 意外な答えはイン
王谷晶の『ババヤガの夜』(河出書房新社)の英訳「The Night of Baba Yaga」(サム・ベット訳)が英国推理作家協会(CWA)のダガー賞翻訳部門を受賞した! 王谷晶さん、サム・ベットさん、おめでとうございます。 なんと胸のすく受賞だろう。 しかも日本からのもう1作の候補作、柚木麻子の『BUTTER』の英訳(ポリー・バートン訳)も僅差で競ったようだ。イギリス最高峰の翻訳ミステリーの賞レースを日本の、女性作家の、犯罪小説が席巻したと思うと心が躍る。2作とも女性同士の関係やきずなを描いたクライムノベルだ。本当に、本当に、ほんの10年前には考えられなかった展開だろう。 それぐらいこの10年間で英語圏の翻訳文学事情は一変した。このことについては後述する。 さて、刊行時からの「ババヤガ」ファンとしては心から嬉しい。さらに翻訳者もノリにのっているサム・ベット、翻訳の腕前はもとより、英米出版
橋本麻里(はしもと・まり) 学芸プロデューサー、甘橘山美術館開館準備室室長、金沢工業大学客員教授。1972年、神奈川県生まれ。国際基督教大学教養学部卒業、草月出版に編集者として勤務したのちフリー。雑誌等の編集・執筆、文化・芸術に関わるコンサルティング、ゲーム、舞台等の監修など、幅広い領域で活動。著書に『かざる日本』(岩波書店)など。 本がたくさんある家と「図書館」の大きな違い ──おふたりのご自宅である「森の図書館」は、いわゆる蔵書がたくさんある家と、何が違うのでしょう? 山本:あくまでイメージではありますが、あるテーマや主題、方針をもって本を収集し、それを利用するために整理して並べているのが図書館で、蔵書という場合はもうちょっとゆるい感じかな。 橋本:図書館には客観性があるんじゃないかな。特に山本がそうですが、好きかどうか、読みたいかどうかとは関わりなく客観的に本を集める、本があることに
井上涼さん=北原千恵美撮影 井上涼(いのうえ・りょう) アーティスト。1983年、兵庫県生まれ。2013年より世界の美術を歌とアニメで紹介するNHK Eテレの美術番組『びじゅチューン!』で作詞、作曲、歌、アニメーション制作を担当。全国各地の美術館で展覧会を行っている。ほかの作品に「赤ずきんと健康」「確信」など。 子どもをなめてかからない ――毎日小学生新聞での連載が、『井上涼の美術でござる』一の巻、二の巻として同時刊行されました。Eテレの長寿番組『びじゅチューン!』で井上さんを知った読者も多いと思いますが、連載のきっかけは? 『びじゅチューン!』を見て興味を持ってくださった毎日小学生新聞の方から、「子ども向けに美術をテーマにした連載まんがを描いてほしい」と依頼をいただいたのがきっかけです。それならば、自分の作品に以前から登場していた忍者のキャラと美術を組み合わせたら面白いんじゃないかな、と
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