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ブラックフライデー
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おそらくはそうなる.ただ,みんなが予想してるあり方とはちがうかも.アメリカが絢爛豪華にアホをやらかして経済的に自滅しつつゆっくりと権威主義体制に堕していく様を目撃して,こんな風に自問する人がちらほら現れている――「結局,21世紀は中国の世紀になるんじゃないだろうか?」 トーマス・フリードマンは「そうなる」と言っている: [中国で事業をやっているアメリカ人が]こう言った.「昔は,みんなアメリカに来て未来を目の当たりにしていた.いまは,ここに来て未来を見ている.」(…) アメリカでは「トランスジェンダーのアスリートがどのチームで競技に参加できるか」という問題にトランプ大統領がクビをつっこんでいる間に,中国では AI で工場の有様を一変させ,アメリカのあらゆる工場のずっと先を突っ走ろうとしている.トランプの「解放の日」戦略では,いっそう関税にのめり込む傍らで,アメリカのイノベーションを促進する国
Photo by Bingjiefu He via Wikimedia Commons社会主義的な目玉政策では,NYC の主要産業流出を止めることも高コストを下げることもかなわないだろう予想どおり,ゾーラン・マムダニがニューヨーク市市長選挙に勝利した.マムダニに関する評論の大半は,彼のイスラーム宗教背景やその左翼的なイデオロギー,あるいはその2つの組み合わせを中心に書かれている.これまた予想どおりだ.2024年の共和党勝利で民主党は衆目の一致した指導者不在に陥っている.そして,マムダニはカリスマのある人物で,冴えた有能な選挙戦を展開して大勢の人たちを触発している.「いまやゾーランこそ事実上の進歩派運動ひいては民主党全体の指導者」なんて言ったら誇張だろうけど,マムダニは間違いなく注目の的だし,彼の成功は左派全体がどこに向かっているかを示していると広く見られている. マムダニのイスラーム信仰や
Photo by Pete Souza via Wikimedia Commonsもっとも根本的な権利のために立ち上がらないといけない「言論の自由が奪われれば,我々は口もきけず沈黙のままにどこぞへと導かれかねない.屠殺場にひかれていく羊のようなものだ.」――ジョージ・ワシントン 「我々の自由は報道の自由にかかっている.この自由は,制限されれば失われてしまう.」――トーマス・ジェファーソン 「なぜ言論の自由と報道の自由が許されるべきなのか? なぜ政府は(…)自らが批判されるのを許容すべきなのか? 私は,殺傷力のある武器による反対を許容しない.思想が命を奪う力は,銃より大いにまさる.なぜ,いかなる者も(…)政府を困らせる有害な意見を世に広めることを許されるべきなのか?」――ウラジーミル・レーニン ドナルド・トランプは,アメリカに言論の自由を復活させると約束しながら再び権力の座に戻ってきた.1月
Photo by Siddhant Kumar on Unsplashアメリカ経済の支柱がひとつ倒れたら,トランプ政権は大コケするだろういま大勢の人たちの脳裏でざわついている問題といえば,これだ:「なんでアメリカ経済は持ちこたえてるんだろう?」 トランプ関税で製造業は大打撃を受けているし,雇用統計の数字もふるわないし,消費者感情は2008年からの大不況レベルにまで落ちている: こういう警戒信号がともっているのに,ギリギリ経済の瓦解に見えなくもない事態すら起きていない.失業率はちょっとだけ上がったけれど,まだまだ極めて低いし,働き盛りの人たちの雇用率は史上最高水準近くにとどまっている(労働市場の健康状態を見るときにぼくが重宝してる数字が雇用率だ).ニューヨーク連銀の GDPナウキャストでは,GDP 成長率の目下 2% をわずかに上回って推移している一方で,アトランタ連銀のナウキャストはそれよ
Photo by Cabinet Public Affairs Office via Wikimedia Commons再び日本を高成長に導くには日本の歴代総理大臣といえば,だいたい,地味で冴えないつなぎ役で,在任期間も長く続かない.ただ,たまに重要な指導者が現れて大きな仕事を成し遂げ,長く政権を続けることがある――2000年代の小泉純一郎と2010年代の安倍晋三が,近年の代表例だ.新しい首相がそういう例外的な総理になるかどうか,就任当初に見極めるのは必ずしもかんたんじゃない――安倍にしても,2000年代にはじめて政権を担ったときにはパッとしないまま短期で退場している.彼が日本を大きく変えたのは,2012年に再登場してからのことだ〔日本語記事〕. 就任したばかりの高市早苗がそういう変革の担い手になるという期待は高まっている.高市は,現代日本ではじめての女性指導者だ.とくに若者を中心に彼女の
アギオン,ホーウィット,モキイアは最大の謎に挑んださてさて,今年もノーベル経済学賞について書く時期がやってきた.よかったら,2024年,2023年,2022年,2021年の記事も読んでみてね.〔日本語版: 2024年,2023年,2022年〕 「ノーベル経済学賞は『ホンモノの』ノーベル賞なのかどうかって飽き飽きする古い問いをのぞくと [n.1],基本的にこういう記事で語るべきことは3つある: 受賞した研究について その受賞が経済学業界について物語っていることについて その受賞がもっと広く世界の政治と政策について物語っていることについて というわけで,まずは受賞した研究について短く語ろう.今年は,文化と経済成長についての功績でジョエル・モキイアが,技術革新のモデル構築でフィリップ・アギオンとピーター・ホーウィットが,それぞれ受賞した.今回の賞の要点についてうまくまとめてある文章は,以下を読む
お隣さんはキミの敵じゃない保守系評論家で「ターニングポイントUSA」創設者のチャーリー・カークが,ユタ州のライブ討論会に参加している最中にむごたらしく暗殺された.これを書いている時点で,犯人は捕まっていない.容疑者が拘束されたと FBI 長官カシュ・パテルがツイートしたけれど,しばらくして,その容疑者は釈放されて,捜査を継続しているとあらためてツイートした: カーク射殺犯が何者かわかっていないので,動機は知るよしもない.もしかすると,去年ドナルド・トランプを狙った2人の暗殺犯みたいに,混乱していて政治的に理解不可能な狂人かもしれない.あるいは,政治的な左翼でカークの保守政治思想を憎んでいる人物かもしれない.そういう人は山ほどいる.あるいは,政治的な右翼で,カークが十分に右翼らしくないと考えている人物かもしれない.たとえば,「グロイパーズ」という白人至上主義者たちからカークはずいぶんと憎悪を
トップ経済学者たちのなかにも,「アメリカ人の一定層で AI による雇用破壊が起きている」と主張する人たちがいる.彼らは正しいだろうか? 「AI は人々の仕事を奪っているのか」をめぐる論争は,永遠に続くかもしれないし,いずれ終わるかもしれない.現に AI が大勢の人たちの仕事を奪ったなら,そこで論争は終わる.その時点で一方の側が明らかに勝ったことになるからだ.でも,AI が大勢の人たちの仕事を奪ってないときには,論争の決着はつかない.それでもなお「もうすぐみんなの仕事が奪われるぞ」って言い続ける人たちが大勢現れるだろうからね.ときに,今後の雇用の見通しがみんなよりも悪い一部の層を見つけて,「ほら,これこそ AI による一大雇用破壊の始まりだ」とその手の人たちが主張することがある.彼らが間違ってると証明できる人なんて,いる? つまり,〔上の話に合わせていいシナリオとわるいシナリオを分けると〕い
Photo by Gage Skidmore via Wikimedia Commonsどの経済アプローチがうまくいくかは,出発地点しだいで大きくちがってくるこの十年にアメリカで党派を超えて見解が一致していそうな分野といえば,「自由市場経済学(あるいは「ネオリベラリズム」)は失敗した」「経済システムには見直しが必要だ」という話だ.もちろん,左翼はずっと前からこう信じ続けている.近年は,ヒューレット財団の人たちなど,主流の進歩派からそっちに合流する人たちも増えている.一方,右翼はというと,トランプのおかげで関税と移民制限がかけられて,優勢な正統教義としての自由貿易は放り捨てられている.それに,共和党全体も,化石燃料産業その他の伝統的な部門に肩入れしたがっている様子だ. 念のためはっきりさせておくと,このぼくも,新しい経済システムを求める主張を続けてきた面々の一人だったりする.長らく,ぼくは自
Photo by Mottinn via Wikimedia Commonsいずれこうなるのは避けられなかった「あんなところやこんなところで日本は他の先進国に先駆けている」なんて話をみんなよくする.昔だったら,その手の話題はテクノロジーだった.もっと最近だと,たいてい,セックスしない若者とかの社会の動向が語られる.ただ,ぼくが日本に暮らしていたときには,日本がアメリカの後追いをしてるところに気がつくことがよくあった.ファッション・音楽・文化では,なにかの流行がアメリカで最高潮を迎えてから5年から10年くらいあとになって日本で人気になるように見えた.[n.1] 「アメリカを再び偉大に」(MAGA) やヨーロッパの「ドイツのための選択肢」党 (AfD) の特色である外国人嫌いで陰謀論を好み自国生まれ優先のポピュリズムは,長らく日本の主流政治には基本的に見られなかった.2012年から2020年ま
ノア・スミス&クリス・ベスト「《Twitterの時代》はついに終わろうとしている.Substackがその後釜に座れるかな」(2025年5月27日) メディアの未来についてちょっと考えてみたことこの記事はクリス・ベストの見解を反映するものではない.執筆者に名前を入れているのは,動画チャットの方に出てくれているからだ. 先日,Substack の CEO クリス・ベストとおしゃべりをした.動画は上に貼り付けてある.話題は,メディアの未来だ.もっぱら,みんながニュースや分析をどうやって共有しているのかってことが議論にのぼった.かつて,突発的なニュースや議論を見つけようと思ったら X(旧 Twitter)にいけばなんでも間に合った.いまや,X がかつての有用性を大きく失ってしまってる点については,ぼくら2人は同意見だ.そして,Substack がその役割を引き継げそうな方法についても,いくらかアイ
あなたのお気に入りの哲学者を困らせたいなら、最近だと一番良い方法は、箱の上に乗った子どもたちのイラスト(「平等と公平」ミーム)を見せることだ。これを哲学者の苦しみの種というのは言い過ぎかもしれないが、哲学者の仕事を楽にしてくれないのは確かである。 哲学者のほとんどはこのイラストを見たことがあるが、それ以上に重要なのは、学生はみなこのイラストを見たことがあるということだ。それだけでなく、学生たちはこのイラストを持ち出せば議論を完全に打ち切れると考えている。学生らに言わせると、このイラストは「公平性(equity)」の正確かつ議論の余地ない定義を示しており、「平等(equality)」という道徳的理念を決定的に打ち負かしているのだという。そうすると、哲学者たちが未だに平等というテーマについて論ずべき問題があると考えている事態は、非常に謎めていて見えるだろう。 哲学者にとっては残念なことに、この
それこそ,日本のポップカルチャーが世界中で成功している秘訣だスペンサー・コーンハーバが『アトランティック』に寄稿したエッセイ「アメリカ・ポップカルチャー史上最悪の時代が到来か?」が公開されてから,2週間で大きな反響がうまれている.友人のW・デイヴィッド・マークスやノア・スミスをはじめとして,多くの人たちがこれに触発されて議論に参加してきた――「アメリカは本当に『文化の暗黒時代』に入ったのか?」「もしそうだとしたら,理由は?」 そこで展開されている主張は,こう続く.「アメリカのテレビ・映画・音楽は後ろ向きになっている.昔から続いていてもう味がしないシリーズを繰り返したり,ヒット作の前日譚を出してみたり,リブートをやってみたり,「インターポレーション」をやったり,派生作品をつくったりするばかりだ.一方,オンラインでは,インフルエンサー志望者が形になってないコンテンツを大量に世の中に送り出して,
予想通り、僕の理論はすべて技術的・経済的なものだ近年、アメリカのポップカルチャーは停滞しているとの話題を頻繁に見かける。こうした主張はまず疑ってかかるべきで、こうした不満は特に目新しいものじゃない。ドワイト・マクドナルドは、20世紀半ば、何十年間も大衆文化を激しく批判していた。マクドナルドは、大衆文化(マスカルチャー)は、ハイカルチャーを汚染し、吸い上げていると考えていた。1980年には、ポーリン・ケイルがニューヨーカー誌に「なぜ映画はこんなに駄目なのか? あるいは数字について」と題した論説を書いて、映画スタジオの資本主義的インセンティブが、派生的な駄作を生み出している原因になっていると主張した。 [1] なので、「なぜアメリカのポップカルチャーは停滞しているのか?」という疑問に答えようとすると、そもそも問題になっていない問題について適当な説明をしてしまう危険性が常につきまとう。たとえば、
Photo by Maximillian Conacher on Unsplash保護主義を唱える人たちの物語は,事実より迷信に近いもう何年ものあいだ,「アメリカは製造業を強化すべきだ」とぼくは提唱し続けている.再工業化にアメリカ人が乗り気になったときには,ぼくは「いいぞいいぞ」と応援した.ジョー・バイデンの産業政策をぼくは大いに支持していたし,一期目のドナルド・トランプが自由貿易志向のコンセンサスを打ち壊したのを称賛すらした. トランプ関税を経ても,その点についてぼくの考えはまったく変わっていない.たしかに,この関税は災厄だ.ただ,それはべつに,製造業を強化しているから酷いんじゃなくて,逆に,こうしておしゃべりしてる間にもアメリカの脱工業化を進めているから酷いんだ.トランプ関税によって,いままさにサプライチェーンと輸出市場を活用するアメリカ製造業の能力が破壊されていっている.トランプ式ア
ノア・スミス「なぜ経済マスコミは『輸入はGDPから差し引かれる』の間違いを犯し続けるのか?:輸入はGDPから差し引かれない! もういい加減にしてくれ」(2025年5月3日) 経済記者も、他のどんな書き手と同じように、完璧な存在じゃない。昔の人は、報道記事は全て完全に真実だと思っていたかもしれないし、今もそう思ってる人がいるかもいれない。でも、報道というのは人の営みで、人は間違いを犯す。真実を知りたいなら、複数の情報源を読んで、自分の読んだものに懐疑的になる必要がある。それでも、間違いは紛れ込んでしまう。 なので、この記事の目的は、僕が衒学的で知ったかぶりをすることでも、経済マスコミの書き手を十把一絡げにして侮辱することでも、特定のライターを非難するわけでもない。でも、ほとんどの経済記者があまりに一貫して繰り返してる単純で初歩的な間違いがある。そして、他のほとんどの間違いと違って、多分だけど
悲しいけど,警告されてたことなんだよね.関税でアメリカ経済が下水に流されようかというときにすら,トランプ政権は他にも愚かなことをやっている.関税ほどハデに愚かではないけれど,もっと長期的にもっと暗い帰結をもたらしうる愚行だ.先日,トランプ政権はキルマル・アブレゴ・ガルシアというエルサルバドル人男性を無実の罪で逮捕して,エルサルバドルの刑務所に送り込んだ.犯罪の告発もなく裁判もなしで,だ.あとになって,政権はガルシアの逮捕が過誤だったと認めた――ガルシアは強制送還からの保護が裁判所によって与えられたけれど,トランプの配下たちはそれでも彼をふんづかまえた. それから数日後,トランプ政権がアブレゴ・ガルシアがアメリカに戻るのを「促進する」ようにとの下級裁判所の命令を,最高裁判所は全員一致で支持した.当初,トランプは最高裁判所の判断を尊重すると発言していた.ところが今日になって,トランプは方針を変
ノア・スミス「ヘイ,民主党各位:トランプがアメリカを焼き尽くそうとしてるときに手をこまねいてるんじゃないよ」(2025年4月7日) 誰かが狂った王を止めないといけない.とんでもなく高いトランプ関税がしばらく撤回されそうもないと投資家たちが認識して,アメリカの株式市場が急落を続けている: アメリカ株式先物は日曜日の夕方に下落した.ドナルド・トランプ大統領が主要な貿易相手国のほぼすべてに対して驚異的なまでに高い関税率を発表した後に2日続けて史上最大規模の株式市場暴落後も,ホワイトハウスは強気な姿勢を崩していない.(…)ダウ工業株30種平均先物は,日曜の夕方に 1,531ポイント(4%)下落し,続いて月曜にも厳しい取り引きが続く見込み.S&P500先物は 4%下落.ナスダック100先物は 4%の損失となった. S&P 500先物は,3回の取り引きセッションで 15% も下落した.もはや「暴落」と
貿易赤字にはたしかに問題もあるけれど,トランプが思っているのとはちがう合理的に議論したり経済理論を解説したりしてトランプ関税を打ち負かせるとは思わない.いや,こういう手合いとどう議論したらいい? キミには新しい iPad なんて必要ない キミには新しいスマホなんて必要ない キミには新しいゲーム機なんて必要ない キミはそういうのを欲しがっているんだ 「必要である」と「欲しい」とは大違いだ 関税について泣き言を言っている人たちを見かけたら,ぜひ質問してやってほしい.この関税で自分の生活がなにか変わったのかい,って ぼくは,しぶしぶ受け入れることにした――「広範囲にわたる関税はダメだ」と幅広いアメリカ人が気づくには,我が身で痛い目をみるしかない.つまり,熱々ストーブに触って火傷をしてみないとわからないんだ.さいわい,遠からずアメリカ人は火傷しそうだ: Source: Gallupこんな話をしてみ
アダム・スミスが言ったように,「よほど多くの愚行を続けねば一国は破滅しない」高校時代の歴史の先生は,風変わりな人だった.いまでも,こんなやりとりを覚えてる――「歴史上の人物って,たまにバカなことをするじゃないですか.あれはなんでですか?」とぼくが訊ねると,彼はニヤリとして逆に質問してきた.「なんで犬は自分のキンタマを舐めたりすると思う?」 とっさにいい答えが思いつかなくてまごついてると,先生は片っぽの眉をクイッとつり上げてこう言った.「できるからやるんだよ.」 いまいち腑に落ちない答えだったけれど,21世紀になってからというもの,アメリカはまさしくバカなことを「できるからやっている」ように思えることが多い. 「なんでイラク戦争なんてはじめちゃったの?」 「コロナウイルスのワクチン接種を拒否する人があんなにも大勢いたのはどうして?」 「どうして西海岸各地の都市が無秩序に陥るに任せてしまったの
Screen cap from a video by Noah Smith, Yoyogi Park, 2023そして,キミの国もきっとそうするだろう理由日本論に関するノアの第一法則「アメリカでなにかの論議がしばらく続くと,そのうち誰かが自説の論拠に日本を持ち出してくる」 日本論に関するノアの第二法則「そういう論拠の8割は間違っている」 どちらの法則も,高技能移民の受け入れをめぐる最近の論戦で大いに発動してる.テック系右派は,(正しく)こう指摘した――「技能のある移民の流入は,アメリカがハイテク産業で競争優位を維持するのに欠かせない.」 他方,移民排斥論をとる右派のなかには,こんな主張を試みる人たちもいた――「インドからの移民流入を禁止してもアメリカはいまと変わらずうまくやっていける.STEM系従業員の訓練にもっとリソースを振り向ければいい.」 これが馬鹿げた言い分なのが明らかになると(ア
(日経BPより3月21日刊行)新著『ウィーブが日本を救う』刊行を控えて、著者のノア・スミス氏からのメッセージを掲載します。 日本のみなさん、こんにちは! みなさんに本書を楽しんでいただけたら幸いです。さらに言えば、日本経済をよりよくしようと尽力しているすべての人々にとって、本書がささやかなかたちで役立ってくれることを願っています。 かつて日本に数年暮らし、いまも頻繁に日本を訪れている人物として、日本という国にもその社会にもたくさんの強みがあるのを知っています――安全で、清潔で、愉快で、便利で、他の多くの国々よりもはるかに安定しています。世界中の人たちが日本を愛好しているのには、もっともな理由があります。ただ、日本では、低成長・低生産性・低賃金といった経済面の問題が長らく続いています。そのため、日本で働く人々や日本に暮らす家庭には、重荷がのしかかり続けています。私としては、心から願わずにいら
MSペイントでノア・スミスが作成したファンアートクルーグマンは偉大な経済学者だけど,それだけじゃなく,経済の語り方の変革者でもあるドキッとした人も安心してほしい.ポール・クルーグマンは存命だよ.ただ,25年近く続けた『ニューヨークタイムズ』コラムニストは引退するそうだ.きっと,引退を惜しむ声はたくさん上がるだろうね.(ちなみに,その後は Substack に移るらしい.だから,きっとたくさんブログ活動をしてくれるはずと期待しておこう!) 大学院2年目の頃に,友人がこう言ってきた.「経済学ブログを始めるべきだよ.そしたら,次のポール・クルーグマンになれるかもよ.」 彼女に,ぼくはこう返した.「いや,ブログはやってみようと思ってるけどさ,クルーグマンの後に続くのなんてどうみてもムリでしょ.」 それはいまも変わらない.というか,クルーグマンのようにやれる人が一人でもいるのか,ぼくにはわからない.
そして,実際に懸念すべきことはこういうことじゃないか第二次ドナルド・トランプ政権の混沌がアメリカに到来している.そのなかでも,政府効率化省こと DOGE の混沌は他に比肩するものがない.トランプは,既存の政府機関のデジタルサービス局のミッションをとてつもなく広く解釈したうえで転用し,管理権をイーロン・マスクに委ねた.トランプ政権の承認を得て,DOGE はアメリカ連邦政府のありとあらゆる部門を調査して,とりやめるべき支払いや,停止すべきプログラム,解雇・休職させるべき職員を捜し回っている. この2週間にDOGE がとった動きはあまりに迅速で,しかも隠し立てしつつ進められている.そのため,いったいなにが進行中なのか誰もいまひとつつかめていないように思える.全体像は混沌の霧に包まれていて,「これは違法だ」「いや違う」といった違法性をめぐる告発と反論が飛び交っている.そうしたことを全部追いかけるの
Vaiz Ha, CC BY 2.0, via Wikimedia Commonsこんな男を侮ったら我が身を危うくしてしまうもっと長文の記事を書いてて,かれこれ2日もかかってる.そこで,合間に別の話をしよう.このところ見かけたバカげた発言のひとつに,こんなのがあった: セス・エイブラムソン: イーロン・マスクの伝記作家として言うと,彼の IQ は 100から 110 の間だと見ている.もっと IQ が高いという証拠は,彼の半生にはまったく見つからない. 「数字の打ち間違いかな」と思う人がいたらいけないので,繰り返しておきたい. マスクの半生には,IQ110 以上を示す証拠はゼロだ. もちろん,この発言はまちがってる.伝記作家のウォルター・アイザクソンによれば,イーロンは1980年代に二度目の SAT 受験で 1,400点をとってる.SAT スコアは IQ と高い相関を示す.見つかるかぎりの
ノア・スミス「アメリカは指導者たちによって売り払われようとしている:メッテルニヒ=リンドバーグか,逆キッシンジャーか」(2025年2月21日) 「中国・ロシアと右派大同盟を結集できる」とトランプとイーロンが思ってるなら,その先に待ってるのはまた別の厄介ごとだ.By Jan Jacobsen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commonsちょっと想像してみよう.中国・ロシア連合に対してアメリカが大規模戦争に負けたら,どうなるだろう.勝利した中露連合は,降伏条件として,いったいアメリカにどんなことを強制するだろう? ぼくには確かなことはわからないけれど,第一次世界大戦の講和条件から考えてみると,アメリカ側が譲歩を強いられる項目は,こんな具合になるかもしれない: 撤退:中国/ロシアの覇権に抵抗を試みている国々への支援を一方的に取りやめるのをアメリカは強いられるだろう.さ
Photo by Indian Ministry of Defence, via Wikimedia Commons(喫緊の内容を加えて再掲) 再掲の前置き1994年,ウクライナは核兵器を放棄した.アメリカとロシアがウクライナの国境と主権を尊重するという約束との引き換えだった. 2022年に,ロシアはその合意をたがえて,不当にウクライナ国境に侵攻して領土の一部を要求した.2025年に,アメリカ大統領ドナルド・トランプはロシア首脳部と会談を行った.報道によれば,ウクライナが戦争を始めたと虚偽にもとづいて同国を非難し,ロシアによるウクライナ領土の征服を容認する「和平合意」を提案したという. これを,北朝鮮の経験と対比してみよう.2006年に,北朝鮮は初の核兵器実験を行った.いま,同国は約50の核兵器を保有していると見られている.北朝鮮は貧困に喘ぎ,敵対的な大国たちと信用しがたい同盟国たちに囲ま
(これは,日本に関する連続記事の第4弾だ.第1弾,第2弾,第3弾は,日本の経済問題を取り上げた.今回の記事では,趣向を変えて日本の文化的な勝利について語ろう.) 日本の創造力が世界を変えた2つの物語90年代以降の日本の物語を語るなら,基本的な筋はこうなる.「経済は弱いけれど,文化面での影響力は強い.」 バブル崩壊から十年後,日本は富の追求から方向転換して,創造的な表現に多くの力を振り向けた.その結果は,目を見張るばかりの文化の花ざかりだった.もはや 90年代や00年代ほどの高みにいたることはないかもしれないけれど,日本の文化的な繁栄は今日まで続いている.それに,90年代や00年代序盤はたまたまインターネットの発展期と重なっていたおかげで,日本の文化が爆発的に開花したタイミングは,世界を席巻するのにこのうえなく合っていた. 日本についてまるっきり間違っている奇妙なステレオタイプが根強く残って
LLM テクノロジーの普及を阻止しようとしても無駄だけれど,輸出規制はまだ機能しうる.先日 DeepSeek っていう中国企業がリリースした一連の大規模言語モデルの性能は,OpenAI や Anthropic といったアメリカ企業のモデルとほぼ互角なうえに,かかるコストがずっと少ないときていた.メディアやテック系界隈の多くでは,これが画期的な出来事として話題になっている――かつての宇宙開発競争における「スプートニック・ショック」と同じことが,米中の AI 競争におきた瞬間だ,というわけだ. 3週間前のロサンゼルス山火事と同じく,DeepSeek の件でも,手に汗いっぱいで心配する声や,声高な意見の開陳やとんでもない誤解などの大袈裟な反応がソーシャルメディアで爆発的に広まった.なかには,いますぐにもアメリカの株式市場が崩壊するぞと息も絶え絶えに宣言する人たちすら現れた: 「DeepSeek
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