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Claude Code
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3月1 鶴見太郎『シオニズム』(岩波新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 著者は昨年1月刊行の『ユダヤ人の歴史』(中公新書)で話題をさらった人物で、本書は昨年の11月刊行。「さすがに二番煎じになってしまうのでは?」と思いましたが、そんなことはありませんでした。 『ユダヤ人の歴史』と同じく、ロシア・東欧からの視点を重視しながら、シオニズムがいかなる思想であり、現在のイスラエルという国家にどのようにつながっているかを描き出しています。 『ユダヤ人の歴史』の歴史に比べると扱っている時代は狭いですが、それによって「なぜイスラエルは現在のようなパレスチナ政策を進めるのか?」という問題に鋭く迫る内容となっています。こちらも読み応え十分の本ですね。 目次は以下の通り。 まえがき 最重要カタカナ語一一選(人物/ユダヤ・イスラエル関連用語)序 章第1章 帝国への適応――国民国家以前のシオニズム第2章 東と
2月15 中井遼『ナショナリズムとは何か』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 著者は『欧州の排外主義とナショナリズム』(新泉社)でサントリー学芸賞を受賞した気鋭の政治学者で、2024年には『ナショナリズムと政治意識』(光文社新書)という非常に面白い新書を出しています。 そのため本書への期待も高かったのですが、ただ、読む前には「同じ新書ということもあって『ナショナリズムと政治意識』と内容が被っているのではないか?」という心配も少しありました。 しかし、その心配は杞憂でした。『ナショナリズムと政治意識』が「ナショナリズム」や「右と左」といった概念を国際比較から揺さぶるような内容だったのに対して、本書はナショナリズムについて、それがどのようなもので、どのような場合に高まり、それがどんな結果をもたらすのかということが分析されています。 ナショナリズムの国ごとの表出の仕方の違いなどは『ナシ
1月23 庄司克宏『EU 統治の論理と思想』(岩波新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 巨大市場としてだけではなく、国際政治における超国家的な主体としても存在感を発揮しているEU。そのEUの仕組みを解説したのが本書です。 「EUとは何か?」という問いに対しては、歴史的な発展を記述していくのがありがちなアプローチですが、本書はあくまでも仕組みを解説することを主眼に据えており、その分、やや難解になっています。 ただ、複雑さの中からEUの理念や、各国の交渉や妥協の歴史も見えてくるところが本書の面白いところでもあります。EUの「規制パワー」について知りたい人などにもお薦めです。 なお、本書は2007年に出版された『欧州連合 統治の論理とゆくえ』の改訂版ということになりますが。その後の出来事や問題も押さえられており、古さを感じる部分はありません。 目次は以下の通り。はじめに第Ⅰ部 EUの実像――超
1月16 濱口桂一郎『管理職の戦後史』(朝日新書) 7点 カテゴリ:社会7点 「メンバーシップ型雇用」「ジョブ型雇用」などの用語を普及させ、日本の雇用システムについてその特徴を明らかにしてきた著者が日本の管理職の問題に迫った本。 以前の著者の本でも書かれていたことですが、日本だと中途採用の面接で来た中高年が「部長ならできます」と言えばそれは笑い話として消費されてしまいますが、欧米では当たり前の受け答えになります。「管理職」という職務がしっかりと確立しており、ビジネススクールでマネジメントについて学んできた人が就くポジションだからです。 本書は、そんな日本の管理職の特殊性を戦後の歴史を紐解きながら探り、アメリカの影響を受けた労働法と実際の日本の管理職のズレと、そこから生まれるさまざまな問題を論じています。 著者は複数のレーベルから新書を出していますが、同じ朝日新書から出た『賃金とは何か』と同
1月5 遠藤正敬『戸籍の日本史』(集英社インターナショナル新書) 7点 カテゴリ:歴史・宗教7点 「無戸籍児」が一時期大きな問題となったように、戸籍とは日本人ならば当然持っている(入っている)もので当たり前のものですが、「どんな機能を果たしているのか?」、「なぜ必要なのか?」という言われるとよくわからないかもしれません。 本籍を皇居の「東京都千代田区千代田一番」にする人が多いように、本籍などは今や何の意味もないように思えますが、戸籍という制度は続いているわけです。 本書はそんな戸籍について、その歴史を振り返りつつ、戸籍を通して「日本人とは何なのか?」とった問題にも迫っています。 少しネタを詰めすぎている感もありますが、読み応えのある1冊となっています。 目次は以下の通り。 一章 「日本人」としての証明書 二章 「古代の制度」がなぜ復活したのか 三章 明治国家が創り出した「家制度」 四章 戸
12月27 2025年の新書 カテゴリ:その他 今年は4月から仕事が忙しくなってしまって、ここまでこのブログに感想をあげているのが42冊(実はあと2冊読み終わってます)。例年50冊前後なのでやや減ってしまいました。 本当はもっと紹介を簡単にしていかなければならないんでしょうが、長年のやり方はなかなか変えられないものですね。 もっとも紹介文を短くしようとしても出来なかったのは、それだけ内容の詰まった新書が多かったからで、このブログは将来の自分のためのメモという性格も強いのですが、それだけ書き留めておきたいことが多かったからでもあります。 ジャンルでは歴史もので力作が次々と刊行され、レーベルでは中公新書が強かったと思います。 新書全体だと、中公新書が秋に価格を上げてきたことで新書の価格帯は1000円以内の時代から1200円前後くらいの時代に大きく変わってきたと思います。 比較的早くから価格を上
12月26 池本大輔『サッチャー』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 イギリス初の女性首相であり、「鉄の女」として国際政治の舞台でも大きなインパクトを残したサッチャー。今年、2025年はサッチャー生誕100年にあたり、本書もそれに合わせて刊行されたのでしょうが、ちょうど日本でも初の女性首相の高市首相が誕生し、その高市首相がサッチャーを尊敬する人物としてあげていることから思いもかけずタイムリーな本となりました。 本書は比較的オーソドックスな評伝のスタイルをとっており、斬新な切り口をとっているわけでもありませんが、サッチャーの歩みを丁寧に追うことで、彼女が意外に「信念の人」ではないということを明らかにしてみせています。 「鉄の女」という愛称からは「絶対に妥協しない」といったイメージが喚起されますが、実は表と裏の顔を使い分けて、自らの信念に反することも行った人物だったのです。 本書はこ
12月14 加藤喜之『福音派』(中公新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 アメリカ政治に大きな影響力を持つとされる「福音派」。中絶問題などでその影響力はうかがいしれますが、では、それ以外にどんな考えを持っていて、どのようにして政治に影響力をもつようになったかというと、日本人からはわからない部分も多いでしょう。 本書はそんな疑問に答えてくれる本ですが、その答え方が鮮やかです。キリスト教の教義に深入りしたり、歴史を遥か前まで遡ることなく、20世紀前半に登場したビリー・グラハムから1つの「運動」としての福音派を描き出します。 本書を読むと、日本にいるとなかなか見えてこない福音派がイスラエルを支持するロジックなど、アメリカ政治の背後にあるさまざまなものが見えてきます。 そのけっこうな部分は荒唐無稽だったりするわけですが、それが実際の政治に影響力を持ってしまっているのが現状であり、本書はアメリカ
12月4 是川夕『ニッポンの移民』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:社会7点 長年、日本の移民について研究し、政府の政策などにも関わり、OECDの移民政策会合メンバーも務めている著者が、日本の移民の現状と過去の政策、将来の展望について述べた本。 日本で排外主義の兆しが見られる中で、まさにタイムリーな1冊なのですが、同時に論争的な本でもあります。 とりわけ議論となりそうなのが、「日本に移民政策はなかった」とする「移民政策不在論」に対する批判と、入管行政には「埋め込まれたリベラリズム」があったとする主張でしょう。 一読しただけでも、それに対する反論・反例が思い浮かぶ人もいるでしょうが、とりあえずは著者の主張を追ってみたいと思います。 目次は以下の通り。はじめに序章 増え続ける外国人第1章 「日本に移民政策はない」は本当か?――現代日本の移民政策第2章 少子高齢化と移民を考えるために――移民政策の
11月24 善教将大『民度』(中公新書) 9点 カテゴリ:政治・経済9点 なかなかのインパクトがあるタイトル。個人的に「民度」といえば宮台真司で、00年代に入ってから日本の現状を嘆く言葉として「民度」という言を連呼していたのを思い起こします。 その後、ネットなどで外国をdisる言葉として「民度」という言葉が使われるのを観測するようになりましたが、いずれにせよ「民度」はだいたい「低い」と結び付き、対象を批判する言葉として使われている印象が強いです。 そんな、ある意味で品のない「民度」という言葉を手がかりに日本の政治に迫ったのがこの本です。 著者は『維新支持の分析』などで実証的な研究を積み上げてきた研究者ですが、民度というのは「高い」「低い」と言われながらも数値化が不可能な概念で、正直なところ実証分析の対象として適当な概念ではありません。 しかし、このなんとも実証分析に適さない民度という概念に
11月3 上杉勇司『クーデター』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 一時は下火になっていたものの、ここ最近になってまたよく聞くようになってきた「クーデター」という言葉。2021年にはミャンマーで起きましたし、2024年の韓国でクーデター騒ぎは多くの人を驚かせました。 そんな再び注目を集めることになったクーデターについて、その発生要因や成功条件、21世紀になってからの特徴、抑止の方法などについて論じています。また、理論をもとに日本の二・二六事件を分析している章もあり、歴史好きの人にも楽しめる部分があります。 ある事象を包括的に論じているという点では、オックスフォード大学の「Very Short Introductions」に通じるところもあり、豊富な事例を取り上げながら、それを理論化するという形になっています。ルポ的な性格もあった、前著の『紛争地の歩き方』(ちくま新書)とはまた違っ
9月9 友松夕香『グローバル格差を生きる人びと』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 副題は「「国際協力」のディストピア」。副題からは国際援助批判の本のように見えますし、実際にそういうところもあります。「緑の革命」批判など、昔からある批判を反復しているように思える部分もあります。 ただし、本書には現在の西アフリカの若い世代の様子を活写しているという類書にはない面白い部分があります。特に先進国の人びとを相手としたロマンス詐欺に勤しむガーナの若者の様子は、まさに「グローバル」と「格差」の双方を強烈に感じさせるエピソードとなっています。 他にも近年の開発のお題目ともなっている「女性のエンパワーメント」が、かえって現地の女性に過重な負担を押し付けているのではないかという指摘も興味深いです。 著者はJICAの協力隊員から研究者となり、アフリカとの行き来を続けている人で、現地を知る人ならではの面白さ
8月31 筒井淳也『人はなぜ結婚するのか』(中公新書) 7点 カテゴリ:社会7点 「人はなぜ結婚するのか?」、その答えとしては「好きだから」とか「一緒にいたいから」といったものがあるかもしれませんが、かつては政略結婚のような本人の感情を抜きにしたような結婚もありましたし、通い婚のように必ずしも同居しない結婚もあります。 また、昔から結婚と生殖は強く結びついてきましたが、基本的には子どもは生まれないと考えられる同性婚も広がりつつあります。 こうした状況の中で、今一度「結婚とは何か?」を問い直し、近年は何が変わろうとしているのかということを明らかにしようとした本になります。 著者は実証的な研究を行ってきた社会学者ですが、本書にはデータ分析の部分はほとんどなく、理論的に結婚を読み解こうとしています。 結婚について今一度根本に立ち返って考えたいという人向けの本と言えるでしょう。 目次は以下の通り。
8月25 横山勲『過疎ビジネス』(集英社新書) 7点 カテゴリ:社会7点 福島県国見町を舞台にした企業版ふるさと納税の闇を暴いた河北新報の調査報道をもとにした本。 著者は河北新報の記者であり(名前は「つとむ」と読みます)、ちょっとしたタレコミをきっかけにして、小さな役場がコンサルやそれに連なる企業によって食い物にされている実態を暴いていくことになります。 前半はスリリングで読ませますし、全体を通じてふるさと納税の問題点、そして人口減少の中で自治体の「創意工夫」に頼る国の政策の問題点が浮かび上がる内容になっています。 目次は以下の通り。第1章 疑惑の救急車第2章 集中報道の舞台裏第3章 録音データの衝撃第4章 創生しない地方第5章 雑魚と呼ばれた議員たち第6章 官民連携の落とし穴第7章 自治の行方 著者が国見町の町政に関心を抱くようになったきっかけは、「国見町の特別職三人が、自分たちだけの
8月14 越智萌『だれが戦争の後片付けをするのか』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 2022年に始まったロシア・ウクライナ戦争は人々に大きな衝撃を与えました。大国によるあからさまな侵略行為に衝撃を受けるとともに、ブチャで明らかになった虐殺や原発への攻撃など、国際的なルールが無視されていることに衝撃を受けた人も多いことでしょう。 同時に、戦争が継続中であるにもかかわらず、ICC(国際刑事裁判所]がプーチン大統領の逮捕状を取るなど、戦争犯罪を積極的に摘発しようとする動きが起こっていることに驚いた人もいると思います。 戦場では第一次世界大戦や第二次世界大戦を思わせるような戦いが続いていますが、それを取り巻く国際社会には変化も見られるのです。 本書は、国際刑事司法の専門家である著者がこうした戦争を取り巻く国際法や、実際にどのように戦争犯罪が捜査され裁かれるのかということを解説したもの
8月7 塩出浩之『琉球処分』(中公新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 琉球王国が明治政府の政策によって琉球藩にされ、さらに沖縄県とされた琉球処分という出来事については多くの人が知っていると思います。 しかし、教科書の記述に出てくるのは明治政府が何をしたかということだけであって、琉球側がそれにどのように対処したのかということはほとんど書かれていません。1つの「国」が消えたという大きな出来事だったにもかかわらずです。 このように今まで日本側からしか語られてこなかった琉球処分について、琉球側からの視点も取り入れて語っているのが本書の大きな特徴です。 本書を読むと、琉球側が激しく抵抗し、清などの諸外国を巻き込みながら、外交交渉のロジックにおいてはときに日本側を打ち負かしていたこともわかります。 また、琉球処分前の琉球のあり方を掘り起こすことによって、朝鮮においても問題となった中国を中心とする
7月31 鳥飼将雅『ロシア政治』(中公新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 ロシアではプーチンの権威主義体制がつづいており、国内での締付けは近年ますます強くなっているというのは多くの人が理解していることだと思います。 では、そのプーチン体制はどのようにできあがり、どのように強化されてきたのでしょうか? プーチンは具体的にどのようなやり方で独裁的な体制を維持しているのでしょうか? ウクライナとの戦争はプーチン体制を強化したのでしょうか? 弱体化させたのでしょうか? 本書は、そんな疑問に答えてくれる本です。 タイトルは「ロシア政治」ですが、ソ連崩壊後、ロシアはエリツィン体制とプーチン体制しか経験していなために、本書の内容はエリツィン体制の混乱からいかにしてプーチンが盤石な権威主義体制をつくり上げ、現在はどのように機能しているかということになります。 ロシアの権威主義体制というと、その「国民性
5月27 内務省研究会編『内務省』(講談社現代新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 本書の帯には次のように書かれています。なんだ? この怪物は……現在の警察庁+総務省+国土交通省+厚生労働省+都道府県知事+消防庁… 戦前に存在した巨大官庁・内務省、本書はその全貌を明らかにしようとした本です。 編者となっている「内務省研究会」は2001年に若手の政治学者や歴史学者が集めってできた研究会で、目次を見ればわかるように錚々たるメンバーが参加しています。 550ページ超えで、内容的には2分冊にしてもいいくらいですし、内容的には「ハードカバーでやっても」という感じではあるのですが、2分冊の新書は買いづらい、読みにくいですし、ハードカバーでこのボリュームだと値段はおそらく5000円近く、そう考えるとこのスタイルで正解かもしれません。 最新の研究を踏まえた記述もありますが、構成が大きな流れから細かい部
4月30 黒田明伸『歴史のなかの貨幣』(岩波新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 これは勉強になった! 今まで長年、日本史の本を読んできて、高校で日本史を教えてきたわけですが、本書を読んで「なるほど、そうだったのか!」となるところが多々ありました。 本書は中国の銭が、日本を含めた東アジア世界に広がっていく様子を追いながら、中国の貨幣政策が中国国内、そして周辺地域にどのような影響を与えていったのかという問題を見ていきます。 また、本書は経済学的な観点からも非常に面白く、「貨幣の流通量が減ると価格が下がる」といった貨幣数量説に反するような現象も報告されています。これらは「貨幣とは何か?」という議論を考える上でも重要な知見です。 さまざまな実証によって既存の理論の修正を迫る非常に刺激的な本です。 目次は以下の通りはじめに――貨幣を選ぶ人々第一章 渡来銭以前――一二世紀まで第二章 素材としての銅
4月22 田中将人『平等とは何か』(中公新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 著者は同じ中公新書で齋藤純一とともに『ロールズ』を書いた人物になります。ということもあって、本書はピケティの議論などを押さえつつも、「平等」について政治哲学の観点から迫った本になります。 タイトルが「平等とは何か」となっているように、本書は「経済的な平等をいかに実現するのか?」ということを論じるのではなく、「そもそも目指すべき平等はどのようなものか?」ということを中心的に論じています。 本書が追及するのは、「支配関係をなくす」というかなり強い平等であり、その実現可能性については意見が分かれるかもしれませんが、イーロン・マスクのような大金持ちが政治の世界にも影響を及ぼしつつある中、本書はタイムリーな本と言えるかもしれません。 目次は以下の通り。第1章 不平等の何がわるいのか?第2章 平等とは何であるべきか?第3章
4月13 慎泰俊『世界の貧困に挑む』(岩波新書) 8点 カテゴリ:社会8点 副題は「マイクロファイナンスの可能性」。著者の名前はシン・テジュンと読みますが、なかなか独特の経歴を持った人物で、過去の著作には『外資系金融のExcel作成術』、『ルポ 児童相談所』といった一見すると同一人物の書いた本とは思えないものが並んでいます。 これは著者が外資系金融機関に勤めてから、五常・アンド・カンパニーという途上国でマイクロファイナンスを行う会社の共同経営者となり、同時に日本児童相談所評価機関でも働いているからです(ちなみに五常は二宮尊徳の「五常講」からきている)。 マイクロファイナンスというと、2006年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスのグラミン銀行を思い浮かべる人が多いと思います。 本書は、もちろんグラミン銀行についてもとり上げているのですが、面白いのは著者の会社も加わっている「ポスト・グ
2月28 河野龍太郎『日本経済の死角』(ちくま新書) 7点 カテゴリ:政治・経済7点 近年、注目を集めているエコノミストが「失われた30年」の要因と、現在の日本の経済状況の問題点を診断した本。 副題は「収奪的システムを解き明かす」となっていますが、人によっては「収奪的」という言葉から2024年のノーベル経済学賞を受賞したアセモグル、ロビンソン、ジョンソンの議論を思い起こすかもしれませんが、本書では現在の日本を「収奪的システム」とみなして議論を進めています。 議論は多岐に及んでおり、そのすべてが正しいかどうかを判断する力は評者にありませんが、少なくとも人々の肌感覚には合った議論が展開されており、著者が注目を浴びている理由というのはよくわかりました。 目次は以下の通り。第1章 生産性が上がっても実質賃金が上がらない理由 第2章 定期昇給の下での実質ゼロベアの罠 第3章 対外直接投資の落とし穴
2月21 鶴見太郎『ユダヤ人の歴史』(中公新書) 9点 カテゴリ:歴史・宗教9点 市川裕『ユダヤ人とユダヤ教』(岩波新書)、臼杵陽『イスラエル』(岩波新書)など、ユダヤ人やその歴史についてはそれなりに知っているつもりでしたが、本書はまた違った角度から、大きなスケールでユダヤ人の歴史を描き出しており、新たな驚きと発見がありました。 近世以降だと、金貸し→ドレフュス事件→ホロコースト→イスラエルの建国といったところが「ユダヤ人の歴史」として想起されるところかと思いますが、本書は東欧やソ連におけるユダヤ人とユダヤ人を取り巻く環境に注目し、そこからイスラエルの政治も読み解いていきます。 本書は、ユダヤ人の特徴、特質ではなく、ユダヤ人とそれを取り巻く環境の「組み合わせ」に注目しています。「ユダヤ人」というカテゴリーは大昔から現在まで存在していますが、その「ユダヤ人」はさまざまなものと組み合わさること
2月15 吉田裕『続・日本軍兵士』(中公新書) カテゴリ:歴史・宗教7点 2019年の新書大賞を受賞した『日本軍兵士』の続編にあたる本です。 『日本軍兵士』はアジア太平洋戦争における、日本軍兵士の死因などをマクロ的に分析するとともに、戦場における歯科医、兵士の体格や服装の劣化、戦場における知的障害者などにも目配りした非常に読み応えのある本でした。 その続編ということで、さらなる細かな分析がなされているのかと思いましたが、そうではなく「なぜ、人命や兵站を軽視する軍隊ができあがってしまったのか?」ということを問う内容になっています。 いわば「プレ・日本軍兵士」、「日本軍兵士・beginning」ともいうべき本で、兵站にしろ医療にしろ、一時は大きく改善した日本軍が再びそれを失っていく過程が描かれています。 目次は以下の通り。序章 近代日本の戦死者と戦病死者―日清戦争からアジア・太平洋戦争まで 第
2月8 梶谷懐・高口康太『ピークアウトする中国』(文春新書) 8点 カテゴリ:政治・経済8点 不動産不況もあって減速ムードが強まっている中国経済、もとから習近平政権による経済への締め付けが強まっていたこともあって、アセモグルらが言うように「やはり権威主義国家の中国では経済成長に限界があるのだ」という議論に説得力が出てきたようにも思えます。 一方、中国のEVは好調であり、世界のシェアを見てもBYDをはじめとする中国企業が名を連ねています。権威主義下の中国では自由な経済活動ができず、イノベーションが生まれないと言うわけではなさそうなのです。 こうした状況について、本書は不動産市場の低迷による需要の落ち込みと、EVをはじめとする新興産業の快進撃を表裏一体の出来事として読み解いていきます。 著者は『幸福な監視国家・中国』(NHK出版新書)のコンビですが、同じように中国の現在の状況の報告とその理論的
1月31 岩井淳『ヨーロッパ近世史』(ちくま新書) 8点 カテゴリ:歴史・宗教8点 中世と近代の間に設定されている近世という時代は、近代から見れば近代の助走期間のように見えますし、中世から見ると中世の延長にも見えます。 こうした中で、本書はヨーロッパの近世の特徴を「多様な地域から構成される複合国家」、「人や情報のグローバルな移動」という2点に求め、改めて近世という時代の特徴と推移を浮き彫りにしようとしたものになります。 この近世史の見直しは、そのまま歴史を国民国家形成の歴史として描く「国民国家形成史観」を問い直すものとなっており、また「ウェストファリア条約以来の主権国家体制」といったものを相対化するものともなっています。 ダイナミックかつ刺激的な議論がなされている本だと言えるでしょう。 目次は以下の通り。 第一部 ヨーロッパ近世の構成要素第1章 宗教と複合国家第2章 経済と地域社会第3章
12月29 佐久間亜紀『教員不足』(岩波新書) 9点 カテゴリ:社会9点 ニュースにもなっている教員不足、狭き門だった自分の若い頃からすると隔世の感がありますが、教育現場では深刻な問題となっています。 これによってさまざまな問題も起こっていますが、この本はそうした問題を指摘するよりも、「そもそもなぜここまで急速に教員不足の問題が起きてしまったのか?」という原因を明らかにしようとしています。 非常に複雑な教員の定数の決まり方から始まり、実際にどれくらい足りていないのか? といったことを見た上で、行財政改革による教員の非正規化と、教員への負担を増やした教育改革という2つの原因に迫っていきます。 さらに教員不足への処方箋を探り、慢性的な教員不足に陥ってしまっているアメリカの状況を紹介しています。 単純に現在の問題を指摘するだけではなく、こうなってしまった経緯を行政側の立場からも丁寧に説明しており
12月22 2024年の新書 カテゴリ:その他 今年は豊作の1年だったのではないかと思います。毎年、上位5冊を選んでいますが、今年は結構悩みました。特に中公新書のラインナップが充実しており、毎月のように面白い本が出ていました。 ということもあって読んだ割合でも中公が多く、そのせいもあって中公、岩波、ちくま以外の新書についてはあまり読めていないです。 あと、漠然とした印象としては、各社ともややページを抑え気味にしているような気がします。今年はブロックみたいな分厚い新書はあまり目立たず、200〜300ページ程度の新書らしいいサイズ感の本が多かったですかね(もちろん、価格の問題もあるのでしょうが)。 では、まずベスト5をあげて、それから何冊かを紹介したいと思います。 中国農村の現在 「14億分の10億」のリアル (中公新書)田原史起中央公論新社2024-02-21 中国農村へのフィールドワークに
12月12 渡邉雅子『論理的思考とは何か』(岩波新書) 7点 カテゴリ:社会7点 タイトルからは「論理学とその応用」のような内容を想像するかもしれませんが、本書は普遍的な論理学ではなく、文化によって異なる論理というものを探索した本になります。 一般的に自分の体験と感想を書く日本式の感想文は「論理的ではない」と思われているわけですが、本書によると、これも日本の文化に則した論理の1つの形ということになります。 本書では、まず、論理学、レトリック、科学、哲学の4つの論理の違いを指摘し、さらにアメリカ、フランス、イラン、日本の学校教育で求められる作文の違いから、それぞれの文化で求められている「論理」の違いを探っていきます。 全体的に面白く、読者を引っ張る力を持っている本だと思います。 ただし、本書で示されている「論理」の分類や性格づけといったものが正しいのかは、正直なところ自分には判断がつきかねま
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