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ブラックフライデー
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Y染色体をもたないのに雄が生まれてくる不思議。その長年の謎が少しずつ解き明かされつつある。 哺乳類の染色体は雌が「XX型」、雄が「XY型」と学校で習った。だが、1977年にY染色体をもたない生物がいることが判明。しかも、生まれるはずのない雄がいるという。そんな常識外れの生物が、奄美大島だけにすむアマミトゲネズミだ。 Y染色体はどこへ行ったのか? この報告に衝撃を受けたのが、当時まだ博士課程の学生だった北海道大学の教授、黒岩麻里さんだ。そして、約20年にわたってトゲネズミの性染色体を研究し、今回、東京科学大学や久留米大学の研究者らと共同で、より詳細なゲノム解読に成功した。 Y染色体のないトゲネズミは、性を決定する役割をもつ「Sry遺伝子」を失っているが、解読の結果、本来Y染色体にあるはずの遺伝子が7個、X染色体にあることを確認。現在のゲノム構造になった過程についても一定の仮説を導くことができ
現在のギザのピラミッドは砂漠の真ん中にあるが、4600年前、この地は特定の季節だけ利用される港だった。(PHOTOGRAPH BY ALEX SABERI) 古代の日誌と失われた川の発見により、ギザの起源にまつわる驚くべき新説が浮かび上がってきた。 ピラミッドの謎を追い続ける人類 ギザのピラミッドほど、私たちの好奇心をかき立ててきたものはない。 4600年前、エジプトの古王国時代に建造された三つのピラミッドは、クフ王、その息子のカフラー王、孫のメンカウラー王の3人のファラオの亡きがらを納め、祭るためのものだった。クフ王の大ピラミッドの建造当初の高さは147メートル。その後、数千年にわたり、世界一高い人工の構造物として君臨した。人類の創意工夫と想像力を象徴するピラミッドだが、建造されてまもない頃から、多くの謎に包まれている。 特に注目されてきた最大の謎は、そもそもどうやって建造されたのかとい
【動画】ホホジロザメを狩って分け合うシャチの群れ、カリフォルニア湾 肝臓を含めホホジロザメを狩って分け合う様子は1分22秒前後~。※動画を拡大して表示させるにはピンチアウトまたはダブルクリックしてください。(Video credit: Erick Higuera & Marco Villegas) シャチの群れが若いホホジロザメを追い詰め、動けなくした後、体にかみついて肝臓を取り出した。研究者らはこの珍しい行動を2025年11月3日付けで学術誌「Frontiers in Marine Science」で報告した。シャチが若いホホジロザメを狩る事例は、カリフォルニア湾では初めての報告であり、世界でも2例目だという。(参考記事:「【動画】ホホジロザメをソロで狩るシャチ、初の報告、2分の早業」) シャチがホホジロザメを狩る行動については、現在、世界中で研究が進められている。 「信じられない映像で
カニを取るために仕掛けられたかごを引き上げるオオカミ。(VIDEO BY HAÍⱢZAQV WOLF AND BIODIVERSITY PROJECT) カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州の海岸で、侵略的外来種のヨーロッパミドリガニ(Carcinus maenas)を取るために、先住民のヘイルツク族が仕掛けたカニかごが何者かによって壊される事件が2023年から相次いだ。犯人を突き止めるため、ヘイルツク族と協力して科学者たちが現場にカメラを設置したところ、かごのなかの餌を盗んで食べるオオカミ(Canis lupus)の姿がとらえられた。これは野生のオオカミによる道具の使用が報告された初の事例ではないかと、2025年11月17日付で学術誌「Ecology and Evolution」に発表された論文の著者らが主張している。 「すべての動きは完全に効率的」 かごのなかには、カニをおびき寄せる
マントノン女侯爵フランソワーズ・ドービニエ(1635~1719年)の肖像画。1694 年頃、ピエール・ミニャール(1612~1695年)による油彩画。フランス、ベルサイユ宮殿所蔵。(PHOTOGRAPH BY BRIDGEMAN IMAGES) 1683年秋のある晩、ろうそくの明かりに照らされたベルサイユ宮殿の教会で、密かに結婚の儀が執り行われた。 花婿は、ほかでもない、「太陽王」と呼ばれたフランス国王ルイ14世(45歳)。花嫁は、貧しい家の出身で、国王の子どもたちの教育係をしていたマントノン女侯爵(マントノン侯爵夫人)(48歳)だった。参列者は王の聴罪司祭とパリ大司教のみで、結婚が正式に登録されることはなかった。 こうして、ベルサイユ宮殿内部にも外の世界にも知られることなく、マントノンは無冠のフランス王妃となった。 ルイ14世(1638~1715年)とマントノン女侯爵フランソワーズ・ドー
地中海食は世界で最も健康的な食事法のひとつだ。積極的に取るべき食品と避けるべき食品の基本原則はあるが、それをベースに、健康状態や味の好みに合わせたアレンジもできると専門家らは言う。(ANDREA FRAZZETTA, NATIONAL GEOGRAPHIC IMAGE COLLECTION) 地中海食は世界で最も健康的な食事法のひとつだと聞いたことがあるだろう。実際、さまざまな健康効果や長寿との関連が示されている。こうした利点や、十分に研究されているという事実が、この食事法を信頼できるものにしている。しかし、地中海食には厳格な基準があるわけではないという点は、あまり知られていないかもしれない。 「地中海食は本質的にフレキシタリアン(柔軟なベジタリアン)です。基本原則を取り入れた上で、自分に合う方法で食事と関連する病気に応用できます」と予防医学の専門家デイビッド・L・カッツ氏は話す。「基本テ
地球の月とは異なり、準衛星は地球の重力に捕らえられておらず、実際には太陽の周りを回っている。しかし地球とほぼ同じ軌道と公転周期を持つため、地球からは、あたかも地球の周りを回っているように見える。(DETLEV VAN RAVENSWAAY, SCIENCE PHOTO LIBRARY) 太陽系にわくわくするようなニュースが飛び込んできた。学術誌「Research Notes of the AAS」に先ごろ発表された論文によると、ビルほどの大きさの謎の小惑星が、地球と並走して太陽の周りを回っていることが分かったのだ。PN7と名付けられたこの天体は、2025年の夏まで天文学者も知らなかったが、60年ほど前から「準衛星」としてひそかに地球に寄り添っていた。 米メリーランド大学の天文学者であるベン・シャーキー氏がPN7について最初に聞いたときに思ったのは「また見つかったか、クールだな」。というのも
エプスタイン・バール・ウイルス(EBV)のカラー化透過型電子顕微鏡画像。新たな研究によると、ほぼすべての人が保有しているこのウイルスは、重要な免疫細胞を変化させて、全身性エリテマトーデスの引き金となる可能性があるという。(James Cavallini, Science Photo Library) 科学者は何十年も前から、大半の人が子どものときに感染する一般的なウイルスが後年、「全身性エリテマトーデス(SLE)」と呼ばれる、体じゅうのほぼすべての臓器を損傷しうる慢性的な自己免疫疾患を引き起こすと考えてきた。しかし、このウイルスがなぜSLEを引き起こすのか、その正確な関連性について、はっきりとしたことはわかっていなかった。 今回、米スタンフォード大学の新たな研究により、その「なぜ」を説明するこれまでで最も明確な手がかりが示された。 「世界の成人のおよそ95%はEBウイルス(エプスタイン・バ
大腸内視鏡検査は命を救う検査だが、不快さから受けたがらない人は少なくない。(PHOTOGRAPH BY ELENA KHARCHENKO, GETTY IMAGES) 医師が肛門からカメラを挿入し、がん細胞やがんになる可能性のある細胞を探す検査は、決して楽しいものではない。それでも、大腸がんの検査ではこれ以上に効果的な方法は存在しない。2025年4月に発表された、ヨーロッパで数万人を追跡した研究によると、定期的な大腸内視鏡検査によって、大腸がんの発症率は最大41%減少し、大腸がんの死亡率は最大29%減るという。 それでもなお、米疾病対策センター(CDC)によると、50~75歳の米国人の30%近くが大腸がん検査(便潜血検査などを含む)を受けていない(編注:日本の国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」によれば、40~69歳の日本人の50%超が大腸がん検診を受けていない)。 中に
米ワシントンDCで、「モンキー裁判」の評決を伝えるラジオ放送を聞くサル。(Photograph by Underwood Archives/Getty Images) チャールズ・ダーウィンの進化論は科学的事実か、またはキリスト教に反する危険な異端思想なのか。1925年、米国テネシー州の24歳の代行教員だったジョン・T・スコープスは、高校で進化論を「教えた」と自ら告白して逮捕され、歴史的裁判の被告人となった。テネシー州が公立学校で進化論を教えることを禁じる法律を制定したからだ。 法曹界の伝説として今も語り継がれるスコープス裁判、通称「モンキー裁判」では、進化論という科学的信念と、地球も人類も神によって創造されたとするキリスト教プロテスタントの信仰が真っ向から衝突し、教育の自由、科学的探究、証拠に基づく科学など、現代にも通じる疑問を投げかけることとなった。(参考記事:「進化論論争は終わらない
2025年の秋から東京・上野の国立科学博物館で開催される特別展「大絶滅展―生命史のビッグファイブ」。40億年の生命の歴史の中でも特に大規模だった5回の絶滅はなぜ、どのように起こったのか。そして、生命はどうやって乗り越えてきたのか。同展の監修者5人が展示の見どころとともに選りすぐりのトピックスを解説します(編集部)。
長年にわたり、リチウムは双極性障害(躁うつ病)の標準的な治療に使われてきたが、近年の研究では、リチウム不足がアルツハイマー病の一因となる可能性が示されている。(Composite Image by Zephyr/Science Photo Library) 生命に欠かせない元素としては炭素、酸素、水素、窒素、リンなどが知られている。このほか、鉄、カルシウム、カリウム、ナトリウムなども重要な役割を果たしている。だがリチウムは長い間、ラジウムなどとともに、何か問題が起こらない限りは体内に入れない方がよいものと考えられていた。 リチウムは、電池などのさまざまな技術に使われる一方、長年にわたり、双極性障害(躁うつ病)や一部のうつ病の有効な治療薬としても利用されてきた。しかし「ごく最近まで、リチウムは生理的に不可欠なものだとは考えられていませんでした」と、カナダ、ダルハウジー大学の精神科医トマス・ハ
ゴビ盆地東部に位置するティール・ウラーン・チャルツァイで見つかった恐竜の卵殻の欠片。(LINDSAY ZANNO) 恐竜の卵を手がかりに年代を測定する新たな方法が見つかった。はるか昔に卵の殻に取り込まれた放射性鉱物から、その卵がいつ産み落とされたものなのかを判断できるという。この手法を使えば、古代の生態系の年代をこれまでよりも正確に特定できる可能性がある。 11月10日付けで学術誌「Communications Earth & Environment」に発表された研究は、化石化した卵の殻には年代を直接測定する手がかりとなる鉱物が含まれているという、近年注目されているこの説をさらに補強するものだ(2025年9月には中国の研究チームが、化石に含まれる方解石を手がかりとして卵の年代を測定した研究結果を発表している)。 「古生物学者は、化石を掘って研究することで地球上にいた生命の歴史の再構築を試み
アレクサンドリア図書館の崩壊を描いたヘルマン・ゴルの絵画「アレクサンドリアの火災」(1876年作)。火災によって、古代ギリシャ、エジプト、ペルシャ、メソポタミアなど、さまざまな古代文化の文学、哲学、科学、歴史などの膨大な史料が焼失した。 (PUBLIC DOMAIN/ART COLLECTION 3/ALAMY STOCK PHOTO) 燃え盛る炎に包まれ、古代最大の知の殿堂、エジプトのアレクサンドリア図書館は消失した。だが、その火を放ったのは誰なのか。これは、歴史上もっとも激しく議論されてきた謎のひとつだ。人々が関心を寄せるのも無理はない。この図書館は、教育と文化の両面において、歴史上きわめて重要な存在だったからだ。 古代世界の誇りとされたこの名高き図書館は、幾度も火災に見舞われた。紀元前48年には、ローマ内戦に巻き込まれる。 アレクサンドリアの大図書館を焼き払ったのは、よく言われる通り
DNAの構造を共同で発見したジェームズ・ワトソン氏。(Photograph by Max S. Gerber, Redux) DNAの二重らせん構造をフランシス・クリックと共同で発見し、ヒトゲノムの塩基配列決定に貢献した米国人分子生物学者のジェームズ・ワトソン氏が2025年11月6日、97歳で死去した。 ワトソン氏は1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、遺伝学の草分けとして高く評価されていた。だがその一方で、研究に貢献した人物の名を出さなかったことや、差別的で論争を呼ぶ発言を行ったことなどで、自らの名声に傷をつけた。 生命の秘密を発見 ワトソン氏と研究仲間の分子生物学者フランシス・クリックは、1953年春、デオキシリボ核酸の二重らせん構造を明らかにした論文を学術誌「ネイチャー」に発表した。ねじれた梯子のような形は今でこそおなじみだが、人間を含むあらゆる有機体の遺伝情報を持つDNAの分
地球史上で最大の絶滅が、今から約2億5200万年前のペルム紀と三畳紀の境界でおこりました。陸上生物の97%、海洋生物の80~86%の種が絶滅し、それまでの生態系は壊滅的な打撃を受けました。大絶滅は火山活動に起因する超温暖化とそれに誘発された海洋の無酸素化が原因とされており、それに続く三畳紀前期も極端に温暖で乾燥した気候であったと言われています。 その様な環境の中、どのような生物がどこで生活し、生物多様性や生態系はどのようにして回復していったのでしょうか。私は、地質学、古生物学、堆積学、岩石学など様々な分野の研究者と共同で、三畳紀前期の地球環境と生物を調べています。これまでの研究から明らかになった絶滅後の約500万年間の世界を紹介します。 三畳紀前期の世界を知るための窓 ウラジオストクは太平洋に面したロシア最大の港で、ロシア極東の政治、経済、文化の中心地です。ヨーロッパを感じさせる街並みが広
インドのカルナータカ州で交尾するヘリグロヒキガエル。黄色いカエルはオスで、茶色いカエルはメスだ。(SUSANNE STÜCKLER) 毎年、インドと東南アジアでモンスーンの雨が降り始めると、文字通り輝きを増すヒキガエルがいる。ヘリグロヒキガエル(Duttaphrynus melanostictus)のオスがわずか10分ほどで茶色からレモンイエローに変わるのだ。この変化が2日間にわたる狂乱の繁殖行動と一致することは長く知られていたが、2025年9月2日付けで学術誌「Ichthyology & Herpetology」に発表された論文で、具体的な役割が解明された。(参考記事:「トゲ肌からツル肌に早変わりする新種カエルを発見」) オーストリアの首都ウィーンにあるシェーンブルン動物園の研究者たちは調査のため、3Dプリンターでカエルをつくった。茶色いものと黄色いものを用意し、交尾(抱接)のために集ま
ペルーの岩がちな尾根に沿って、5200個ほどの穴がびっしりと細長い帯状に並ぶ場所がある。まるで、巨大なヘビが山を登っているかのように見えるため、「モンテ・シエルペ(蛇の山)」と呼ばれるこの穴の集まりは、1931年にペルーを訪れた米国の調査団によって再発見されたものだが、長年考古学者や陰謀論者らを当惑させてきた。 約1000年前の人々がなぜこのような穴を掘ったのか、誰も知らなかった。10年以上前に初めてこれを目にしたとき、他では見たことのない光景に考古学者のチャールズ・スタニッシュ氏は「非常に興味をそそられました」と話す。 現代になってこの場所が広く知られるようになったきっかけは、1933年にナショナル ジオグラフィックが初めて穴の空撮写真を公開したことだった。(参考記事:「古代インカ都市マチュピチュ、知られざる10の秘密」) スタニッシュ氏によると、それ以来この奇妙な構造物の正体について、
【動画】頭上を飛ぶコウモリをわしづかみにするネズミ。(VIDEO BY KNÖRNSCHILD LAB, MUSEUM FÜR NATURKUNDE BERLIN) 都会で冬を越す在来種のコウモリにとって、外来種のドブネズミ(Rattus norvegicus)がどの程度危険な存在かを調べたところ、ネズミの恐るべき能力と大きな影響が明らかになった。ネズミたちは飛ぶコウモリを巧みに捕らえ、越冬場所の群れを組織的に襲っていた。論文は10月10日付けで学術誌「Global Ecology and Conservation」に発表された。 ドイツ北部の暗い洞窟の中、1匹のドブネズミが、尾でバランスを取りながら後ろ脚で立ち上がる。ネズミはふいに上に向かって手を伸ばしたかと思うと、空中を飛んでいるコウモリをわしづかみにし、その体に噛みついた。赤外線監視カメラに記録されたその映像を初めて見たときに、論文
テキーラは低カロリーで二日酔いになりにくいと売り込まれることもあるが、どれほどの根拠があるのだろうか。(CRISGRIGAN, SHUTTERSTOCK-2660556579) 酒の種類にまつわる「法則」を聞いたことはないだろうか。たとえば米国では、ウイスキーは人を攻撃的にし、ワインは感情的になる、などと言われることがある。テキーラ? あれは瓶に入った悪魔だ。 しかし米国では近年、テキーラの評判は変わりつつある。かつては学生が春休みに後悔する原因だったが、今ではバーで最も「クリーン」な選択肢とうたわれている。低カロリー、無添加で、二日酔いになりにくいと。しかし、こうした主張は本当だろうか? 「人体に害を及ぼす商品を売り込むときは、ありとあらゆる手でハロー効果(一部の目立つ特徴につられて全体の評価が歪められる現象)を生み出さなければなりません」と否定的なのは、米ボストン大学公衆衛生学部のデイ
2019年夏、生態学者のパトリック・サリバン氏は軽飛行機スーパーカブで、米国アラスカ州北部ブルックス山脈の峡谷を飛行し、サーモン川の源流へと向かっていた。目的は、急速な気候変動の証拠であるツンドラ地帯への樹木の侵入を調べることだった。そのとき、驚くべき光景を目にした。澄んだ冷たい川とブルーグリーンの淵を期待し、釣り竿まで持ってきていたのに、水は濁り、川岸が鮮やかなオレンジ色に染まっていたのだ。「まるで汚水のようでした」とサリバン氏は振り返る。 サンプルの採取を終え、パックラフト(可搬型ゴムボート)で下流へ向かう間も、濁ったオレンジ色の水は続いた。川沿いでは、痩せ細ったクマを何頭も見た。 ある静かなよどみで、特に痩せたクマが近づいてきた。その暗い瞳にじっと見つめられ、サリバン氏は不安を覚えた。川の劣化が魚を減らし、クマの食料を脅かしているのではないだろうか。「私たちは生態系の崩壊を目の当たり
更年期の摂食障害は一般に考えられているより珍しくないと、専門家は言う。(Photograph by Westend61, Getty Images) 中年期以降の女性のあいだで、摂食障害が静かに、しかし着実に増えている。医師や専門家によると、40代から70代の女性が摂食障害の相談に訪れるケースが欧米で目立って増えているという。そうした女性たちは、摂食障害を患う人のステレオタイプ(つまり10代の少女)に当てはまらないため、適切な診断を受けられなかったり、治療が遅れたりすることが少なくない。 「あなたは摂食障害になるには年を取り過ぎていると医者に言われれば、自分がひどく軽視されていると感じるものです」と、米ノースカロライナ大学摂食障害卓越センターの創設者兼所長シンシア・ビューリック氏は言う。「しかし、閉経周辺期の多くの女性たちから、そうした対応を受けたという報告が上がっています」 この傾向を数
ほぼ100年ぶりにカリフォルニアに戻ってきたタイリクオオカミ。しかし、共存の道のりは平坦ではない。(MALIA BYRTUS, NATIONAL GEOGRAPHIC) 米国カリフォルニア州魚類野生生物局は、地元の牧場主たちからの切実な苦情を受け、4頭のタイリクオオカミを法律に基づいて殺処分するという異例の措置を取った。実に100年以上行われてこなかった対応だ。 同局は2025年10月初め、カリフォルニア州のシエラネバダ山脈にあるシエラバレーと呼ばれる地区で、タイリクオオカミのつがいを捕獲して安楽死させた。この地域の牧場主たちからは、多くの家畜に被害が出ていると繰り返し苦情が寄せられていた。(参考記事:「シエラネバダ山脈 火災の爪痕を記録する」) 同局によると、最終的には「ベイエム・セヨ」と呼ばれる群れの完全な駆除を目指している。カリフォルニア州には、このようなオオカミの群れが合わせて10
最新の研究で、レビー小体が関わる認知症が大気汚染と関連している可能性が示された。 (PHOTOGRAPH BY AARON HUEY, NAT GEO IMAGE COLLECTION) 汚染された空気が肺に害をなすことは広く知られている。では、脳にはどうだろうか。最新の研究で、大気汚染が、ある代表的なタイプの認知症のリスクを高める可能性が示されている。(参考記事:「PM2.5などでの肺がんが世界で増加、台湾では患者の2/3が非喫煙」) それは、「レビー小体型認知症」と「パーキンソン病認知症(認知症を伴うパーキンソン病)」だ(編注:以下では2つのタイプをあわせて「レビー小体が関わる認知症」と呼ぶ)。どちらも、「α(アルファ)-シヌクレイン」というタンパク質を主な成分とする「レビー小体」という塊が脳内に過剰に蓄積し、健康な細胞に広がって死滅させることで引き起こされる。厚生労働省によれば、日本
帯状疱疹ワクチンを接種すると意外なしかたで命が守られる可能性があるという証拠が示された。(PHOTOGRAPH BY MASSIMO COLOMBO, GETTY IMAGES) 帯状疱疹(たいじょうほうしん)はできればなりたくない病気だ。水ぶくれを伴う発疹に苦しんだ人々は、焼けるような、あるいは刺すような痛みと表現する。ときには、その痛みが何カ月も続く。重症の場合、命に関わることもある。 この恐ろしいウイルス感染症のワクチンに、苦痛を防ぐ以上の効果があることを示唆する証拠が示された。スペイン、マドリードで開催されたヨーロッパ心臓病学会(ECS)で2025年8月30日に発表された。 この研究結果を、帯状疱疹ワクチンの認知度と接種率を高めるべき新たな根拠だと見る科学者もいる。日本では2025年度から65歳の人などが定期接種の対象となった。生ワクチンは帯状疱疹を6割程度、組み換えワクチンは9割
幼いTレックスを襲うナノティラヌスの集団。ナノティラヌスは幼いTレックスとする説もあったが、新たな証拠により別の種の恐竜であることが明らかになった。(ANTHONY HUTCHINGS) 小型でスリムなティラノサウルス類の化石は、はたして幼いティラノサウルス・レックスなのか、それとも別種の恐竜ナノティラヌス・ランケンシス(Nanotyrannus lancensis)なのか。40年にわたる激しい論争がついに決着するかもしれない。ティラノサウルス類の化石を200以上分析した研究結果が10月30日付けで学術誌「ネイチャー」に発表され、Tレックスとは別種の敏捷でスリムな恐竜ナノティラヌスであると著者らは宣言した。 「論争を終わりにするため、私たちはこの問題をあらゆる角度から検証することにしました」と言うのは論文の筆頭著者で、米ノースカロライナ自然科学博物館の古生物学者であるリンジー・ザンノ氏だ。
ロシア、サハ共和国で解けた永久凍土から発見された1万9700年前のケブカサイの角。長さは約165センチ。サイの角としては、これまで見つかっているものの中で最長だ。写真は1本の角を両サイドから撮影したもの。(RUSLAN BELYAEV) 2024年の夏、地球上で最も寒い定住地として知られるロシア、サハ共和国(ヤクーチア)の奥地で、地元のハンターで化石収集家のロマン・ロマノフ氏が解けた永久凍土から頭骨と湾曲した巨大な角を発見した。首都ヤクーツクにあるマンモス博物館は1万9700年前のケブカサイ(Coelodonta antiquitatis)と特定し、現生種、絶滅種を問わず記録が残る全てのサイの角を調べたところ、約165センチの長さはこれまでで最長と結論した。論文は2025年9月12日付の学術誌「Journal of Zoology」で発表された。 今回報告された角は、過去に最長とされていた
政府の地震調査委員会が、南海トラフ巨大地震の今後30年以内の発生確率を、これまでの「80%程度」から「60~90%程度以上」に見直した。過去の地盤隆起データの誤差などを考慮し、新たな計算方法によってはじき出した。また、他の地域の地震に使われている別のモデルで計算した「20~50%」という数値も併記した。いずれも「3段階ある発生確率ランクで最も高い」という。 一つの地震について二つの発生確率が併記されるのは初めてで、地震の発生確率をめぐる科学の限界を示した形だ。各地の防災の現場には戸惑いの声もあるが、南海トラフ巨大地震の危険度が変わったわけではなく、調査委は「いつ起きてもおかしくない状況に変わりない」(平田直委員長)と強調している。幅のある数値に振り回されることなく、巨大地震の被害を少しでも減らすための警戒と備えが求められる。 赤い線は南海トラフ巨大地震の想定震源域。オレンジ色の線は震源域を
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