
人類は滅亡した。AIが暴走して世界がペーパー・クリップで埋め尽くされた結果だった。その数十億年後、太陽は巨大化。今度は地球の消失が迫っている……。
そんな度肝を抜く設定のSF漫画のネーム(下書き)が、SNSに投稿されて大きな反響を呼んでいます。作者は田中空(たなか・くう)さん。漫画『タテの国』や小説『未来経過観測員』などSF色の強い作品で知られています。
田中さんは10月1日、Xの公式アカウント(@tanaka_kuu)で「世界がペーパー・クリップだけになった話」とキャプションをつけて65ページ分のネームを連続投稿しました。過去にお蔵入りした『アフター・クリップ』という作品だそうです。下書き段階なので絵は簡素ですが、ストーリーの面白さは十分に伝わってきます。詳しいネタバレは避けますが、概略は以下のようになっています。
人類滅亡後を描く『アフター・クリップ』ってどんな話?
暴走したAIがペーパー・クリップを作り続けた結果、人類が滅亡したあとの世界。数体のロボットがメンテナンス担当として地球上で監視を続けています。変化の見られない世界で、ロボットのうちの一体は「果たして我々は必要なのだろうか…」と自分の存在に疑問を感じています。人間が「まだいたらな……」と思いを馳せていました。

そんな中、別のロボット「ヤマダ」さんが地底20キロから、人間の脳を発掘します。DNAを元に復元されたのはジュールという少女でした。状況を理解した彼女はロボットたちに怒りを露わにします。「なんで生き返らせたの?こんなディストピアに!!」。

絶望する少女に何とか生きる喜びを知ってもらおうとロボットたちが悪戦苦闘する様が描かれていきます。
この作品は、投稿から2日間で約1万件の「いいね」が寄せられるな大きな反響を呼びました。読者からは以下のようなコメントがありました。
💬 「こういうのほんと弱い。涙が止まらない」
💬 「さすがの面白さー!!」
💬 「相変わらずいいSF描くなぁ」
💬 「何回も読んでるけど、何回読んでも良い話だ」
💬 「シンプルに壮大な話って誰もが想像するけど、作品に出来る人は本当に少ない」
作者の田中空さんが振り返る「ニック・ボストロムの著書から着想を得た」
「人類消失後にペーパー・クリップで埋め尽くされた世界」という設定はどこから着想を得たのでしょうか。BuzzFeed編集部が作者の田中さんに取材したところ、哲学者のニック・ボストロムさんの著書『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』(日本経済新聞出版)が元になっていることを明かしました。
この中で、AIの暴走の一例として「ペーパー・クリップ問題」というのがあり、AIの暴走の一例として、AIが地球全体をペーパー・クリップを作るための設備に変え、その範囲を広げつづける……という状況を示しているそうです。哲学者の恐ろしい思考実験をハートウォーミングな作品に昇華するとはSF漫画家の力量を見せつけられた形です。
田中さんによると、2022年の夏頃にウェブ向けを考えていたそうですが、読み切り向けの会議に落ちてお蔵入りになったそうです。作中に登場する少女「ジュール」はSF作家草分け的存在のジュール・ベルヌから採ったそうです。
ネームを完成させたり、リメイクする可能性についても聞きましたが「一度ボツになるとなかなかそうもいかないのが残念です」と振り返っていました。
田中さんの新作『人喰いマンションと大家のメゾン』の第2巻は10月3日に発売されました。永遠の時間が流れる奇妙な「マンション」での暮らしを描く内容で、こちらもSF色が強い作品です。『アフター・クリップ』が気になった方は、こちらもチェックしてみると良いかもしれません。
