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ブラックフライデー
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キーボードをまるでプラモデルのように部品から組み立ててつくる「自作キーボード」が、この数年で静かなブームとなっている。全国に点在する愛好家たちは独自の機能や形状を追求して外観や基板を設計し、それをプロダクトとしてSNS上で発表する。安価に部品を入手するため、希望者を募って一括して購入するグループバイの仕組みも構築されるなど、独自の生態系が広がっている。2025年5月に開催された国内最大規模のコミュニティイベント「キーケット」は、58サークル・11社が出展し、来場者はおよそ2000人。あまりの混雑に入場制限がかかるほどだった。 キーそれぞれが独立した構造をもつメカニカルキーボードの市場に限っても、世界で年間4000万台超が出荷され、日本だけで年間300万台以上が販売されているとされる。そのうち1割強がDIY(自作)に挑戦しているというデータもあり、愛好家のあいだで「自分でつくるキーボード」は
本記事インタビュイーである民俗学者・菅豊さんがフィールドとしている、新潟県小千谷市東山地区の牛の角突き(闘牛) 撮影・山田凌 SNS上で人気を博している歴史愛好家のアカウントを、多くの人は見たことがあるだろう。歴史の研究者ではなく、しかし多くの文献や資料にあたり、各地を調査しに訪れ、その成果や見地をシェアしている非専門家の姿は、まさに現代的といっていい。 『パブリック・ヒストリー入門:開かれた歴史学への挑戦』(菅豊・北條勝貴編、勉誠社、2019年/オンデマンド版、2021年)の共編者であり、民俗学を専門とする菅豊さんは、アカデミシャンの立場でこうした歴史の裾野の広がりを見てきた人物だ。自身もまた21世紀に入った頃、新潟県小千谷市で行われている牛の角突き文化とかかわりをもった。調査のフィールドとするなかで2004年の新潟県中越地震をきっかけにより深い付き合いとなり、いまでは小千谷闘牛振興協議
photograph courtesy of Seoul International Book Fair 2025年6月18日から6月22日にかけて開催された、ソウル国際ブックフェア。前売りだけでチケット15万枚が完売するなど耳目を集めた。近年、韓国文学が人気の日本でもすこしずつこのブックフェアの存在は知られつつあるが、なぜそこまで人びとが殺到するのかは謎めいている。 その実状を尋ねるべく、ソウル国際ブックフェアの代表であり、出版社「eum」の代表でもあるチュ・イルウ氏に取材を依頼。突っ込んだ質問にも快く答えてくれたチュ・イルウ氏のことばから見えてきたのは、読書という静かな文化をめぐる、しかし非常に刺激的な韓国カルチャーの最前線だった。 interview by Yuka Kuwahata, Yasutomo Asaki, Fumihisa Miyata and Hidehiko Ebi
ジャズ喫茶より出でて、ジャズ喫茶にあらず。独自進化を遂げたパリの「ミュージックバー」をジャズ評論家の柳樂光隆が訪問。写真は、「NOTRE DAME Music Bar」 text & photographs by Mitsutaka Nagiraジャズ喫茶、パリに行く 7月の頭にフランスに行った。目的はリヨンの近くのヴィエンヌという町で行われているジャズフェスの視察と、そこに世界中から集まるジャズ関係者とのミートアップといったところで、ヴィエンヌには五日間ほど滞在したのだが、せっかくフランスまで来たのだからとパリにも寄ることにした。 ジャズに明るい方ならなんとなくご存じだと思うが、フランスはジャズに関しては先進国とは言い難い国だ。世界的な知名度のジャズミュージシャンもいるにはいるが、決して多いとは言えない。ただ、フランスという国はジャズへの思い入れの強さは世界でも屈指だ。パリには多くのジャ
photograph by San Kawata カディと出会うまえ、わたしは、 本にまつわる仕事を(たいていは机に向かって) 東京でしていました。 都会のまんなかにいながら、 いつもどこかで、 はしっこで生きているような 気持ちがしていました。 たいていは、眉根を寄せて、 口をぎゅっと結んで暮らしていました。 あるとき、どういうわけか、 潮の流れが変わるように、 わたしのまえに「ウマ」があらわれました。 ——河田桟『はしっこに、馬といる』(2015年) わたしたちは普段、人と人とのコミュニケーションを「ことば」によって成り立つものだと考えがちだ。けれど、実際のやりとりはもっと複雑で、表情や身振り、沈黙や間合い、声の調子といったことば以外の要素が大きな意味をもつことが少なくない。ふとした仕草やまなざしで気持ちが伝わることもあれば、心と体がちぐはぐで声が届かないこともある。そうかと思えば、残
1970年に開催されたグラストンベリー・フェスティバルの第1回の光景 Photo by Robert Blomfield Photography/Getty Images tofubeats 1990年生まれの音楽プロデューサー・DJ。2007年頃よりtofubeatsとしての活動をスタート。2013年に「水星 feat.オノマトペ大臣」を収録した自主制作アルバム『lost decade』をリリースソロでの楽曲リリースやDJ・ライブ活動はじめ、さまざまなアーティストのプロデュース・客演、映画・ドラマ・CM等への楽曲提供から書籍の出版まで音楽を軸に多岐にわたる活動を続けている。最新作は地元神戸のラップデュオNeibissとの共作「ON & ON feat. Neibiss」。2025年、主宰レーベル/マネジメント会社HIHATTは10周年を迎える。 https://www.tofubeats
『ブラック・カルチャー』(岩波新書)を上梓した中村隆之氏(左)と、本対談の発案者でもある音楽評論家・柳樂光隆氏。早稲田大学・早稲田キャンパス、中村氏の研究室にて収録 事のはじまりは、ジャズを専門に音楽評論やミュージシャンへのインタビューを手がける柳樂光隆氏からWORKSIGHT編集部に届いた、中村隆之氏との対談希望だった。中村氏が2025年4月に上梓した『ブラック・カルチャー:大西洋を旅する声と音』(岩波新書)が、待望にして垂涎の一冊だったというのだ。同書の冒頭には、「ブラック・カルチャー」=「アフリカに由来する文化」とした上で、「音楽」がその「文化的基層」を成していると書かれている。 2010年代以降、世界の先端的なジャズ・シーンを日本国内に紹介し続け、ムーブメントへとつなげてきた柳樂氏の目に、『ブラック・カルチャー』が魅力的に映ったのはなぜか。その理由を両者の対話のなかで掘り下げていく
「バーンズ・アンド・ノーブル」で本を撮影する来店客 photograph by Angus Mordant/Bloomberg via Getty Images アメリカの大型書店チェーン「バーンズ&ノーブル」は、1990年代に全米で急速にその規模が拡大したものの、2010年代に入ると売り上げが低迷し、閉店が相次いだ。オンライン販売の台頭と、どの街に行っても同じような品揃え・内装という所謂チェーン店的な均質さが、読者の足を遠ざける一因となった。 そんななか、経営再建の切り札として招かれたのが、イギリスの老舗書店チェーン「ウォーターストーンズ」の再建を果たしたジェームズ・ドーント氏である。2019年、彼はバーンズ&ノーブルのCEOに就任し、「書店を再び甦らせる」という挑戦に乗り出した。その後のバーンズ&ノーブルは、コロナ禍の影響もどこ吹く風とでもいうように、2024年には57店舗を新規出店
image by Siaga Tegar/Getty Images 「我思うゆえに我あり」から始まる近代的主体は、個人主義と自由主義の後押しを受けながら、わたしたちを自律したスタンドアローンの存在として生きるようかたどってきた。それは現在、一方で社会的に構築された「わたし」の解体を目論見ながら、反動的にそれをより強化してしまうアイデンティティ・ポリティクスへと行きつき、その一方で「わたし」を外側から規定する性別や人種といった制約を、自己申告によって乗り越えようとするトランスヒューマニズムなどへとたどり着く。 多様なコンテクストが入り乱れ、「わたし」をめぐる困難、生きづらさはいや増すばかりだが、そんななか、英国の人類学者ティム・インゴルドは、「わたし」の現在地を思考する上で、「世代」という論点が決定的に語られぬまま問題の根底に眠っていると、最新刊『世代とは何か』で指摘する。 わたしたちは「世
アメリカのコミック/グラフィックノベル/MANGA業界を刷新した、ジェフ・スミスの傑作『BONE』の「Scholastic」版 © Scholastic Inc. text by Kei Wakabayashi巨大な転覆 ある日、YouTubeを観ていたら、ひょいと「コミックのセールスに関する不都合な真実」といったタイトルの動画エッセイがオススメされてきた。おそらく昨今のディズニーの映画・ドラマの凋落ぶりを解説する動画をたくさん観ていたせいでレコメンドされてきたのだろう。 アメリカのコミックについては、せいぜいDCコミックスやマーベルといったビッグブランドと、その主要キャラクターについて映画やドラマを通してそこそこ知ってはいるくらいで、いわゆる「アメコミ」が産業としてどう成り立っていて、どのような状況にあるのかについては、正直まったく知らない。なので、まずは興味本位で動画を観てみることにし
渋谷区本町にあるポップアップスペースnakaya これからの都市空間は、どのように形づくられるべきだろうか。パンデミック、観光客の往来、少子高齢化、気候変動への対応、そして災害対策──これら現代都市が抱える課題の数々は、わたしたちの生活様式や価値観の再考を求め、新たな視点を生むきっかけとなっている。この連載では、持続可能で包摂的な都市の在り方を模索し、それを実現する可能性を探求する。 第1回となる今回は、東京・渋谷区本町の小さなポップアップスペースに焦点を当てる。地元商店街の一角に突如現れたこの場所は、人びとが集い、語り合い、ときに新たな価値を創出する空間だ。その設計を手がけたのはデザイナー・永井健太さん。彼はこれを「1/1スケールの実験の場」と呼ぶが、それは単なる建築デザインの試行錯誤にとどまらない。商業施設やデザイン事務所という枠を越え、地域の人びとと協働し、街全体の未来を見据えた挑戦
発注とケアと職業倫理の罠WORKSIGHTコンテンツ・ディレクター若林恵による年頭コラム。積年のテーマである「発注」を考えることで見えてきた、仕事というものをめぐる根源的な問題とは? 編集者は素人 「発注」ということについて、ここ数年わりと気にしてきたのは、自分が「編集」を仕事にしてきたことと深く関わっている。編集者と呼ばれる職種には、基本、何の専門性もない。政治学の本を担当したからといって、その編集者が本を書いた作者よりも政治学に詳しいといったことは、あったとしても極めて稀だ。仮にそんな編集者がいたとしても、次に担当するのが心理学の本だったりすれば、話は元に戻る。編集者は、基本、素人なのだ。 にもかかわらず、本や雑誌の企画の、そもそもの言い出しっぺは、当該の編集者だったりする。素人である編集者は、専門家である作者のところに行って、「こんな本つくりませんか?」と提案する。もちろん合議を経て
photograph by Eugene Mymrin/Getty Images text by Shotaro Yamashita(WORKSIGHT)「脳腐れ」の時代 2024年、世界的な注目を集めたのは「brain rot(脳腐れ)」ということばである。このことばが「Oxford word of the Year」に選ばれた背景には、現代社会が抱える深刻な問題がある。それは、ソーシャルメディア上に氾濫する低品質で断片的なコンテンツを無尽蔵に摂取することが、個人の知的・精神的な状態を蝕むという現象である。このことばは、特にZ世代やアルファ世代の間で浸透し、TikTokなどのプラットフォームを通じて急速に広まった。若い世代がこのことばを単なる流行語として受け止めるのではなく、自らのデジタル環境を批判的に捉えるきっかけとして活用した点が注目に値する。 興味深いのは、このことばのルーツを探る
本文中に登場するダニエル・テムキン作のプログラミング言語「folders」:フォルダのなかにフォルダを重ねていくことでプログラムを構成する via danieltemkin.com 1960年にフランスで発足した実験文学集団「ウリポ」は、言語遊戯的な技法の開発を通じて新しい文学の可能性を追求した。中心的存在であった作家ジョルジュ・ペレックは、フランス語アルファベットのなかで最頻出の「e」の文字を一度も使わずに、長編小説『煙滅』を書き上げた。 さて、現代の言語遊戯はコンピュータプログラムにも及んでいる。それが「エソラング」(esolang:esoteric programming language〔難解プログラミング言語〕の略)だ。ハッカーたちの間では、エソラングは一種の嗜みとして親しまれているようなのだ。 JavaやC++、Pythonといったプログラミング言語は、多くの人がその名前を知っ
中国版TikTokの動画を手がかりにたどり着いた湖南省の「張五郎」信仰の現場。張五郎は気性の荒い神のため、机の下に祀るという photograph by Toru Otani 民俗学というと、市井の人びとの慣習や伝承を自らの足で探し集めたり、そうしたものの痕跡がたどれるような文献資料にあたったりする学問というイメージがあるかもしれない。もちろんそのような方法はいまだ民俗学の中心にあるのだが、広大な、そして多様な中国の民族文化をたどろうとするとき、短尺動画アプリである中国版TikTok(正式名称は「抖音(douyin)」。日本で一般的に使用される国際版TikTokとは別個のアプリ)が便利だと話すのが、中国民俗学を専門とする大谷亨さんだ。 「無常」という名の中国の死神を魅力的なビジュアルとともに伝えた『中国の死神』(青弓社、2023年)でも話題を呼んだ大谷さんは、近頃中国版TikTokの民俗学
ロイター? マグナム? アレックス・ガーランド監督の最新作で、ようやく日本でも公開された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(以下『シビル・ウォー』)は、突っ込みどころの多い映画だ。アメリカの政治状況をベースにした内戦の設定が的外れだとか、アメリカの現実を反映していないといった、よくある突っ込みについては、監督自身がそのことにさほど重きを置いていないことが映画の序盤でおよそ察しがついてくるので、まあいいとしよう。 前情報をほとんどもたずに観に行ったため、主人公が報道カメラマンおよびジャーナリストであることに最初は面食らったが、面食らったというのは他でもない、その主人公の設定が、よく言えば古典的、悪く言えば古臭く思えたからだ。 とはいえ策士として知られるガーランドのことだ。そこにも何か仕掛けがあるのかと思って観続けることになるのだが、映画が進みキルステン・ダンスト演じる主人公の報道カメラマン
うつむき加減のテック テクノロジーの話題がすっかり退屈なものになって久しい。やれメタバースだ、やれWeb3だ、やれAIだと新しいトレンドには事欠かないが、すでに多くの人が、それがシリコンバレーの一部のベンチャーキャピタリストが仕掛けたハイプでしかないことを見透かすようになってしまっては、どれも長続きはしない。画像生成AIがみんなの気を引いている限りにおいて、AIはかろうじて命脈を保ってはいるものの、早晩みんなが飽きたときに何が残されているのかを思って、すでに冷や汗をかいている投資家も少なくないのではないだろうか。 AIといえばイスラエル製のAI「ラベンダー」はその使用例として世界に最大級の衝撃を与えるものではあったが、ガザ地区への砲撃のために用いられるミサイルと一体型になったAIが、このハイプがもたらした最大の収穫というのであれば、少なからぬ人が「テックイノベーション」の話題に対してうつむ
CANTEEN代表・遠山に、6月に入居したばかりの新オフィスを案内してもらいながらインタビューを実施した 2019年に設立されたCANTEENは、Tohji、ralph、kZm、Elle Teresa、JUMADIBAなど現在多くの支持を得るラップアーティストたちのマネジメント、海外展開のエージェント業務、イベント制作などを全方位にわたって支援するほか、ファインアートのグループ展やギャラリー運営も行っている。その特徴は、アーティストのみならず、楽曲やMV、ビジュアル、ライブなどを制作する多種多様なクリエイターのマネジメントも行い、クリエイターたちのつながりを通して、次々に新たなクリエイティブを生み出すエコシステムを形成していることだ。 彼らは今年、その拠点を新たなオフィス「CANTEEN Studio」に移し、会社の持つ機能をさらに広げようとしている。クリエイティブなコミュニティを運営し、
スケーター、文化史家、哲学者、音楽家などへの取材を通じ、「声」をきくこと・書きとめることの困難と可能性に向き合ったプリント版『WORKSIGHT[ワークサイト]19号 フィールドノート 声をきく・書きとめる Field Note』。 本日7月25日(木)、本誌に登場する哲学者・永井玲衣の新刊『世界の適切な保存』が発売された。これに際し、永井玲衣による「きく」ための5つのヒントと、WORKSIGHT編集部員3名が加わり「きく・きかれる」ことの難しさを語り合った企画「人の話を『きく』ためのプレイブック」を特別公開する。 行為だけでなく態度としての「きく」とは。また、その過程で経験する「わからなさ」や沈黙との向き合い方についても掘り下げた。 Illustration by Kenro Shinchi Interview & Text by Sonoka Sagara/Yasuhiro Tanak
2024年5月15日、トスカーナの丘陵地帯に広がるブドウ畑 photograph by Giulio Origlia/Getty Images 2022年3月に刊行された『イタリアのテリトーリオ戦略:甦る都市と農村の交流』(木村純子、陣内秀信・編著、白桃書房〔法政大学イノベーション・マネジメント研究センター叢書〕)で論じられている「テリトーリオ」という概念は、一口に論じるには、あまりに豊かな概念だ。書籍の紹介文にはこうある。 イタリアでは70年代に入ってから、経済性偏重の都市政策の結果、都市の過密と農村の過疎が顕著となった。それをきっかけに、歴史、文化、環境、住民意識等の非経済的な価値を重視する地域政策への転換へと舵を切ることになる。その鍵となったのが、テリトーリオ概念である。これは、地域の文化、歴史、環境、その土地の農産物の価値を高め、都市と農村の新しい結びつきを生む社会システム概念であ
京都市交通局が運行する、京都市営地下鉄の駅で配布されている『ハンケイ500m』 『ハンケイ500m』は、毎号京都にあるバス停をひとつ選び、そこから半径500mの円内をくまなく歩き、“まちの人”を発見して特集するフリーマガジンだ。誌面に登場するのは一般市民や地元企業で、読者もほとんどが地元民という地域密着型。創刊からまもなく14年目を迎え、2024年3月発売の最新号は78号目となる。KBS京都ラジオの番組「サウンド版ハンケイ500m」とも連動しているほか、大手企業や官公庁などとのコラボレーションも増えているという。 同誌を読んでいると、京都という地域に根ざしたネットワークがそこに可視化されているように感じる。そして今回、創刊から同誌編集長を務める円城新子さん、同誌に信頼を寄せる地元企業、配布に協力する京都市交通局といった関係者たちへのインタビューから見えてきたのは、フリーマガジンというメディ
TikTokの「#witchtok」の検索画面のスクリーンショット。witchtok(ウィッチトック)は、TikTokを使って呪文を共有したり、神話について学んだり、同じ信仰をもつユーザーがつながったりするサブカルチャーである。フェミニズムやポップカルチャーの文脈では、魔女は女性の自立の象徴として扱われ、注目を集めている 『RITUAL:人類を幸福に導く「最古の科学」』(ディミトリス・クシガラタス著、晶文社)によれば、人類が定住したのは農耕を始めたからではなく、大規模な儀式を行うためであったという説があるという。現代でも、多くの一流のアスリートは「儀式」を好み、迷信的な行為を自身のパフォーマンスを引き出すために行っていることが知られる。このように半ば非合理的に思える、いわばオカルト的な営為は古代からわたしたちの生活のあちこちに見られるものだ。 The New York Timesの記事によ
移民問題は、アメリカをはじめ世界各国で今や最大とも言える政治課題となっている。移民労働者の増加は、雇用はもとより、国内の住宅、医療、教育、治安をめぐる社会制度を圧迫する。けれども移民労働なくして、わたしたちの経済はもはや回らない。議論はずっと平行線をたどる。そして、それはいまに始まった話ではない。移民問題の不正義を問うだけでなく、それを指摘し告発することの矛盾や困難と向き合った本が、いまからちょうど50年前に執筆されている。 英国の作家ジョン・バージャー(1926-2017)の『第七の男』(A Seventh Man)がそれだ。美術批評家でもあり、小説家でもあり、詩人でもあり、ジャーナリストでもあったバージャーは、当時すでに社会問題化していた欧州の移民問題を、新聞的な社会派ルポルタージュとも客観的な社会学的エッセイとも異なる独自のやり方で描き出した。文章と写真とを用いて移民問題の核心にある
「なぜハイデガーでなければならない? なぜラカンでなければならない?」「僕たちにだって思想や理論はあるんだ」──。2023年12月に刊行された『私が諸島である:カリブ海思想入門』(書肆侃侃房)の本論冒頭、そして書籍の帯にも引かれているのは、著者である中村達が指導教員ノーヴァル・エドワーズ、通称ナディからかけられたことばだ。2015年、西インド諸島大学へ留学した中村が、西洋の文学理論や哲学を援用しながらカリブ海の文学を分析した論文を見せた際の、短くも強烈な一言だったという。 カリブ海の思想と聞けば、遠いものだと感じるだろうか。いや、その実態を知れば、文化が分かちがたく混じりあって変化していく様相を描き出す思想は、現代社会の深奥を抉るものなのだとむしろ近しさを覚え、共感を抱くはずだ。そして同時にカリブ海思想は、そのように普遍的な思想として自らを消費しようとするものを、注意深く牽制してもいる。つ
「詩がわかる」とはいったいどういうことなのか。「言葉を理解する」ことを哲学し、意味の伝達にとどまらない言葉の側面を探求した天才哲学者、ルートウィヒ・ウィトゲンシュタイン。その言語論を紹介した入門書『はじめてのウィトゲンシュタイン』や、第41回サントリー学芸賞を受賞した『言葉の魂の哲学』のほか、最新刊『謝罪論』も話題の哲学者・古田徹也氏との対話を通して、「詩がわかる」の正体を解き明かす。「詩のことば」の秘密を知れば、詩を読むのがきっと楽しくなる──。プリント版最新号『WORKSIGHT[ワークサイト]21号 詩のことば words of Poetry』より転載してお届けします。 interview & text by Kei Wakabayashi illustrations by Saki Souda しっくりくることばを探して 古田徹也との対話・ウィトゲンシュタインと詩の理解 置き換えら
Photo by gremlin via Getty Images 近年、多世代共生をめぐる議論が徐々に活発化している。 世代や年齢は、企業のESG情報開示基準である「GRIスタンダード」やSDGsなどでも言及されるように、組織や社会の多様性を担保する上で欠かせない要素だ。しかしながら、性別や人種、あるいは性的マイノリティなどのテーマと比べると引けをとり、長らく論じられてこなかったテーマでもある。 しかし、国連の推計によれば2050年には世界人口の16%、つまり6人に1人が65歳以上の高齢者になるという。世界的に高齢化が加速するなか、労働力人口の確保や経済社会の維持は各国で社会問題となり、60代、あるいは70代の労働者の継続雇用はすでに現実のものとなっている。まさにいま、わたしたちは多世代共生を考える必要性に迫られているのだ。 そのような背景から2023年8月に出版されたのが、マウロ・ギレ
Photo by Lorenzo Herrera on Unsplash 国内のある大学院の授業では、プレゼンテーションを行う際にゲームを活用することがある。例えば、地方創生プロジェクトについて説明する際、成功事例の流れをRPGゲームに仕立て、プロジェクトの発足やステークホルダーとのやりとりなどを追体験してもらうのだ。 ゲーム自体はとてもシンプルなつくりだし、マルチエンディングがあるわけでもない。だが、予備知識なしでもイメージしやすく、インタラクティブ性によってプレイヤーを惹きつけることができるゲームは、プレゼンでは強力なツールとなっている。 ゲームはもはや、エンターテインメントの枠には収まらない何かへと変容しているのかもしれない。ある事象・体験の概要だけでなく、その物語性や文脈を伝え、プレイヤーが擬似的に体感できるゲームは、虚構世界上の楽しみだけではなく、現実世界での学びを得られる実用性
わたしたちは当然のことながらそれぞれ異なる身体をもっている。当然、それとリンクする得意・不得意も異なる。しかし、学校、会社、そしてスポーツ活動などではいつも「こうあらねばならない」という正しさに晒され、規定的な反復学習や、一律的なスキル習得を迫られている。エラーやノイズをできるかぎり抑えた、再現性の高いロボットのような存在となることを期待されながら。 しかし、そもそも万人に"効く"ような学習方法、ひいては正解などあるのだろうか? スポーツ、なかでもサッカー界における規定的なアプローチに疑問を抱き、いまはFCガレオ玉島や南葛SCアカデミーで"制約デザイナー"としてコーチングを行っているのが、今回登場する植田文也氏だ。 植田氏は、スポーツ指導に関する研究で有名なポルトガルのポルト大学に留学し、エコロジカル・アプローチを始めとする先進的な運動学習理論を学んだ。帰国後は、生態心理学にもとづき"制約
2021年11月、オランダのロッテルダムで「見せる収蔵庫」としてオープンしたデポ・ボイマンス・ファン・ベーニンゲン、通称「DEPOT」(以下「デポ」)。本館にあたる市立美術館、ボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館の約15万点のコレクションを収蔵すると同時に、その空間を一般公開している、世界に類をみない美術施設だ。 この斬新な取り組みは、人びとに“キュレーション”が存在しない新たな美術体験を提供するだけでなく、倉庫で眠ったままになっているコレクションを有効活用しながら、美術品の修復・保管・維持といった裏側の仕事に光を当てるという、美術館の効率化と透明化も促進している。 このようなモデルチェンジの裏側には、公共美術館が抱える深刻な事情があるという。美術界の金融化、グローバル化がもたらしたアートマーケットの高騰による運営の厳しさ。一方で、外部の援助を受けることは市立美術館としての公共性を脅かす
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